蛸草

蛸草（たこくさ）

兵庫県加古郡稲美町に属する大字の一つ、それが蛸草（たこくさ）である。この地域は稲美町のほぼ中央、母里地区に位置しており、その郵便番号は675-1116となっている。

地理

蛸草は、広大な印南野台地の中央部からやや南に位置する、豊かな田園風景が広がるエリアである。かつては蛸草新、さらには蛸草庄や蛸草谷とも呼ばれていた区域が含まれる。地域の景観を特徴づける存在として、天満大池があり、この池は蛸草大池とも称され、古くからこの地の農業用水として重要な役割を果たしてきたと考えられる。地勢としては、東側と南側を岡・印南といった地区に、西側を国安に、そして北側を国岡・野寺・野谷といった地区に囲まれている。

歴史

蛸草の歴史をたどると、この地域が古くから水利や土地利用を巡る課題と向き合ってきた様子がうかがえる。

江戸時代の寛文6年（1666年）には、隣接する神出郷との間で土地境界に関する論争が発生している。また、嘉永5年（1852年）には、印南新村（現在の印南地区）との間で水利権を巡る争いがあった記録も残されており、当時の水資源の重要性を示唆している。

地域の教育に関する歴史としては、明治6年（1873年）12月に稲美町立母里小学校が戎山に開校したことが特筆される。その後、明治26年（1893年）10月には、この母里小学校が現在の蛸草地区の北隣にあたる野寺の字上南岡へと移転した。これは、当時の地域の中心や人口分布の変化を示唆する出来事かもしれない。

明治30年（1897年）には、地域の象徴ともいえる亀の石碑が建立された。

地名そのものにも変遷があり、大正5年（1916年）には現在の「蛸草」という名称に改められた。それ以前の具体的な地名変更の経緯や旧称との関係性については、さらなる調査が待たれるところである。

昭和30年（1955年）3月30日には、地方自治体の再編に伴い、母里村が大字蛸草から稲美町の大字蛸草へと所属が変更され、現在の体制へと移行した。この時期には、字域の境界などにも変化があったと記録されている。

現在の状況

蛸草地域は、2022年（令和4年）2月28日現在で一定の世帯数と人口を有している。具体的な数値は日々変動するものの、この地域に根ざした人々の暮らしが営まれている。

子女が町立の小・中学校へ通う場合、学区は稲美町によって定められている。

交通の面では、残念ながら地域内に鉄道駅は存在しない。しかし、路線バスとして神姫バスが運行されており、地域住民の主要な公共交通機関として利用されている。道路網としては、兵庫県道148号大久保稲美加古川線、兵庫県道381号野谷平岡線、そして兵庫県道514号志染土山線といった主要な県道が地域内を通っており、周辺地域や幹線道路へのアクセスを担っている。

地域内には、前述の天満大池（蛸草大池）のほか、地域住民の生活を支える母里郵便局がある。また、地域産業の一端を担う施設として、キング醸造本社工場、木下製缶稲美工場、宮家興産稲美工場などが立地しており、製造業が一定の存在感を示している。そして、歴史の項でも触れた亀の石碑が、今もこの地にその姿をとどめている。

蛸草に関する情報は、神戸新聞総合出版センターが編集した『兵庫県の難読地名がわかる本』や、橘川真一氏編著の『地名でたどる小さな歴史 Ⅱ』といった文献にも記載が見られる。これらの資料は、蛸草という地名や地域の歴史をより深く理解するための手助けとなるだろう。

もう一度検索