蜜柑水

蜜柑水：昭和レトロな清涼飲料水の軌跡

かつて日本各地で親しまれた蜜柑水は、大正から昭和にかけて多くの人の喉を潤した、ノスタルジックな清涼飲料水です。沖縄県などを除く全国の駄菓子屋で販売されていましたが、零細企業による製造が主流だったため、時代の流れとともに多くのメーカーが廃業。現在では、その存在は非常に稀少なものとなっています。駄菓子屋の減少も相まって、蜜柑水は現代では幻の飲み物となりつつあります。

蜜柑水の概要

蜜柑水は、ほんのりとした甘みと酸味をバランスよく合わせた、爽やかな味わいが特徴です。砂糖、果糖ぶどう糖液糖、酸味料、香料、水などを主な原料として作られていますが、名前とは裏腹に、蜜柑の果汁は一切含まれていません。特定のメーカーのブランド商品ではなく、複数のメーカーが製造販売し、駄菓子屋などで広く流通していました。

中部地方では、澤井飲料（静岡県）やカゴメ食品（愛知県）といったメーカーが蜜柑水を製造していましたが、両社とも現在は廃業しています。関西地方、特に神戸市兵庫区・長田区にはかつて十数社ものメーカーが存在し、多くの場合「アップル」という商品名で販売されていました。しかし、阪神・淡路大震災後の銭湯やお好み焼き店といった主要販売ルートの減少により、多くのメーカーが廃業の道を辿りました。現在、神戸下町で「アップル」という商品名で蜜柑水を製造販売しているのは、兵庫鉱泉所（長田区菅原通1丁目）のみとなり、年間15万本を出荷するご当地飲料として親しまれています。

2009年にエルビーが発売した「さわやか みかん水」は、低果汁入りの清涼飲料水として知られていますが、従来の蜜柑水とは全く異なる商品です。こちらは蜜柑果汁を2％配合しており、紙パック容器を使用しています。

蜜柑水の容器

蜜柑水は、一般的に王冠で密栓されたガラス瓶を使用していました。これらの瓶は洗浄して繰り返し使用されるのが一般的で、中には30年以上使用されている瓶も存在します。兵庫鉱泉所の「アップル」もその例です。メーカーによって瓶の形状は異なりますが、廃業したメーカーから瓶を譲り受けて使用しているケースも多く見られます。近年ではペットボトルを使用している例も見られるようになりました。

蜜柑水の現在と未来

蜜柑水は、その製造方法や販売ルートの特殊性から、現在では非常に珍しい清涼飲料水となっています。しかし、レトロな雰囲気や懐かしい味が再評価され、新たなファンを獲得しつつあります。兵庫鉱泉所の「アップル」のように、地域に根付いた商品として生き残るケースもあれば、新たなメーカーによる復刻版が登場する可能性もあります。蜜柑水の未来は、まだ未知数ですが、その歴史と味わいは、多くの人々の記憶の中に大切に保存されていると言えるでしょう。

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