蟇股

蟇股（かえるまた）とは

蟇股（かえるまた）は、日本建築における部材の一つで、中国から12世紀頃に伝わりました。漢字では「蛙股」とも表記され、中国語では駝峰（だほう）と呼ばれます。2本の水平材の間にあり、上に斗を載せる台形の斜辺に繰形をつけたような形状で、その姿が蛙が脚を広げた様子に似ていることからこの名前が付けられたと言われています。

当初は梁の上に置かれて上の材料を支える構造材でしたが、後に装飾部材としても用いられるようになりました。

名称の由来

「蟇股」という名前は、蛙が脚を広げた姿に似ていることに由来します。しかし、この形状は平安時代後期に現れる本蟇股（後述）に見られるもので、その名称も本蟇股の登場と同時期であると考えられています。

蟇股の各部位には、左右に伸びた部分を「脚」、上部を「肩」、斗に接する巻き込んだ部分を「目玉（眼玉）」と呼び、脚の間の彫刻部分については俗に「はらわた」と呼びます。これらの名称は、蟇股の形状を実際の蛙に例えたものです。

起源と背景

蟇股の起源は、割束（わりづか）または人字形割束（にんじけいわりづか）と呼ばれる部材であると考えられています。割束は中国が起源とされ、北魏時代の雲崗石窟や唐代の龍門石窟などにその例が見られます。また、朝鮮半島でも、高句麗の双楹塚壁画に同様の部材が描かれています。

これらの中国の割束は、飛鳥様式として日本に伝来しました。日本では、法隆寺金堂や回廊、食堂などで見ることができ、金堂のものは一材をくりぬいた曲線的なもの、後者2つは直線の部材を繋ぎ合わせたものです。前久夫は、これらの部材を「原始蟇股」と呼べるとしていますが、後の蟇股とは区別する必要があると述べています。

東洋建築における類似の部材

蟇股と同様の部材は、後代の東洋建築にも見られます。中国建築ではこれを駝峰と呼び、ラクダのコブに似ていることが由来です。この名称は、北宋時代の1103年に刊行された『営造法式』に記載されています。また、朝鮮建築では同様の部材を華盤（ファバン）と呼びます。

蟇股様の建築部材は東アジア建築に広く存在しますが、日本においては特に平安時代以降、独自の発展を遂げました。近藤豊は、日本建築の細部で最も優れたものとして蟇股を挙げています。

蟇股の種類と歴史

蟇股は、大きく分けて板蟇股（いたかえるまた）と本蟇股（ほんかえるまた）の2種類に分類されます。

板蟇股

板蟇股は、奈良時代後期に出現した部材で、奈良時代の蟇股はすべてこれに属します。主に虹梁の上に置かれ、上の虹梁や桁、棟木などを支える構造的な役割を果たしました。東大寺南大門のように、遊離尾垂木受けとして用いられることもありました。

古い時代の板蟇股は構造材としての性質が強く、奈良期のものは高さと厚さがほぼ同じか、厚さが勝ることもありました。唐招提寺講堂のような例外もありますが、一般的には巻き込み（目玉）が大きく、唐招提寺金堂のように彩色が施されたものもあります。東大寺転害門のように、宝珠形の彫り込みが施されたものもあります。

平安前期の板蟇股は現存するものがありませんが、後世の作例から、巻き込みが小さくなっていく過渡期であったと考えられます。平安後期のものは、法隆寺西院鐘楼や平等院鳳凰堂翼廊のように、厚さが薄く、目玉が小さいのが特徴です。また、平等院鳳凰堂中堂の蟇股には、宝相華唐草文様が描かれています。

鎌倉時代以降、板蟇股は定型化し、作例も大幅に増加しました。仏堂建築では天井を張って梁を隠すのが一般的になったため、仏堂では密教本堂の外陣以外では、四脚門や棟門などに用いられることが一般的となりました。部材はさらに薄くなり、繰形部分の幅が広くなり、目玉は斗に接触するようになります。さらに時代が下ると、目玉は消滅していきます。

本蟇股

本蟇股は、透かし蟇股（すかしかえるまた）や刳抜蟇股（くりぬきかえるまた）とも呼ばれ、平安後期から現れます。本蟇股は、組物間の中備として用いられるのが一般的です。部材が細いため構造的には脆弱で、装飾としての意味合いが強いです。

初期の本蟇股は、2つの材を組み合わせて曲線的にした割束のようなもので、中尊寺金色堂や醍醐寺薬師堂が最古の例です。鎌倉時代に入ると、1つの材をくり抜いて作るものが多くなり、不退寺多宝塔のように内部に簡単な「はらわた」が加えられるようになります。これらは左右対称で、パルメット様です。

室町時代に入ると、装飾の左右対称性は薄れ、彫刻はより具象的なものになります。唐草や鳥、雲などの題材が採用されるようになります。桃山時代に入ると、彫刻技術はさらに発達し、海馬や牡丹、獅子、波などを象った豪華な彫刻が施されるようになりました。輪郭の外に彫刻がはみ出す例も現れました。一方で、はらわたの発達と並行して輪郭の造形は軽視されるようになり、桃山時代から江戸時代にかけては「拙い」作例も増えました。元禄期以降、蟇股の作風は爛熟し、「手は混んでいても低俗醜悪」という評価を受けることもありました。しかし、明治時代以降は古建築の調査研究が進み、亀岡末吉の東本願寺勅使門に見られるような優れた作品も現れるようになりました。

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