蟻通神社 (泉佐野市)

蟻通神社の由緒と歴史

大阪府泉佐野市に位置する蟻通神社（ありとおしじんじゃ）は、古くは蟻通明神と呼ばれていました。この神社は、大国主命と蟻通明神を主祭神として祀っており、その歴史は弥生時代中期にまで遡ります。社伝によれば、紀元93年に五穀豊穣と国土開発を祈るため、開化天皇の御代に創建されたとされています。

草創期の歴史

創建当初、蟻通神社は現在の場所から約1km北、熊野街道沿いに広大な神域を持っていました。当時、樫井川水域上流の大井堰神社（日根神社）と対をなす「日の神」「根の神」として、日根郷の人々に崇められていました。現在でも、旧日根荘の住民には二社の二重氏子が存在しています。

蟻通の名の由来

「蟻通」という名前が初めて文献に登場するのは、紀貫之の歌集です。貫之が馬の病気平癒を祈願した際、地元の人が「ありどほうし神」と答えたと記されています。しかし、中世以前の資料では「有通神」と表記されることが多く、「蟻通」の字が一般的になるのは後の時代です。

「蟻」の字が使われるようになった背景には、清少納言の『枕草子』に記された孝子説話が影響しています。この説話では、唐から持ち込まれた「七曲りの玉に糸を通す」という難題に対し、老父の知恵を借りた中将が「蟻に糸を結び玉の中を通らせる」という方法で解決したとされています。この物語が、「ありどほうしの神」の由来と結びつけられたのです。

また、平安時代末期には熊野詣が盛んになり、「蟻の熊野詣」と揶揄されるほど多くの人々が熊野を訪れました。その際、蟻通神社の門前を必ず通ることから、「蟻」の字の印象が強まったとも考えられています。

中世の争いと神社の変遷

蟻通神社のある長滝荘は、平安時代を通じて藤原氏の所領でしたが、天福年間には九条道家が和泉国に下り、佐野湊を管理するようになりました。これにより、長滝荘の下司職を兼ねる日根家と、隣接する日根荘を管理する九条家との間で、長滝荘を巡る争いが勃発しました。1316年に作成された「日根野村絵図」には、蟻通明神が長滝荘の中心として明記されています。

室町時代以降の歴史

室町時代になると、1489年に山内房顕が長滝荘の支配者となり、1509年には山内信貞が長滝荘惣分代官および蟻通明神・大井堰明神の目代に任命されました。蟻通神社は12819.5坪の広大な社域を持ち、長滝荘の要として繁栄しました。

しかし、1577年の織田信長による雑賀攻めの際、蟻通神社は巻き添えとなり、建物や宝物類全てを焼失しました。その後、豊臣秀吉政権のもとで再建が進められ、1603年には豊臣秀頼によって本殿などが再建されました。しかし、1615年の大坂夏の陣で、豊臣軍と浅野長晟軍の戦いの舞台となり、再び社殿が焼失しました。

1659年には岸和田藩主の岡部宣勝が社殿・玉垣・鳥居などを再建し、神宮寺宗福院の建立や社領の寄進を行いました。また、山内信貞の二男である木戸喜助に「末代まで蟻通明神の祭祀を行うように」と御墨印を与え、以降、木戸氏が蟻通神社の神主を務めています。歴代藩主の保護も厚く、数々の神宝や土地が寄進されました。

近現代の歩み

1866年の神仏分離令により、宮寺の宗福院は取り壊されましたが、その表門は現在も清福寺に残されています。その後、蟻通神社は村社に列せられ、1917年には郷社に昇格しました。1942年には、佐野陸軍飛行場建設のため現在地に移転しましたが、社殿などの建造物はほぼ元通りに配置されました。移転前の旧神域には「蟻通神社跡」の石碑が建てられています。2015年には、本殿、幣殿、舞殿など11件が国の登録有形文化財に登録されました。

現在の活動

現在、蟻通神社は地域住民向けの教室活動や、能楽奉納行事「ありとほし薪能」を開催するなど、地域文化の振興に貢献しています。特に、能「蟻通」が縁で始められた子ども能楽教室や、毎年9月に開催される薪能は地域の人々に親しまれています。

伝説

紀貫之との関わり

蟻通神社は、紀貫之ゆかりの神社としても知られています。かつて境内には紀貫之の像があり、石碑も建てられていましたが、現在は壊れて設置跡のみが残っています。

伝説によると、貫之が紀伊国からの帰路、誤って蟻通明神の神域に騎馬で入り込んだ際、馬が急に倒れてしまいました。神の怒りを悟った貫之が、歌を詠んで謝罪したところ、神の怒りは収まり、馬は再び立ち上がったと伝えられています。この伝説が元になり、世阿弥が能「蟻通」を作曲し、鈴木春信が浮世絵「雨中夜詣（見立て蟻通し）」を描くなど、多くの芸術作品にも影響を与えています。

境内

蟻通神社の境内には、以下の文化財があります。

本殿（国登録有形文化財）：1669年に再建され、1942年に現在地に移築されました。
幣殿（国登録有形文化財）：1942年に建立されました。
透廊（国登録有形文化財）：1942年に建立されました。
後門（国登録有形文化財）：1942年に建立されました。
拝殿（国登録有形文化財）：江戸時代末期に再建され、1942年に現在地に移築されました。
舞殿（国登録有形文化財）：江戸時代初期に再建され、1942年に現在地に移築されました。
六社明神
石の祠
北手水舎（国登録有形文化財）：江戸時代末期に建立され、1942年に現在地に移築されました。
裏門（国登録有形文化財）：1853年に再建され、1942年に現在地に移築されました。
土蔵
社務所
絵馬殿（国登録有形文化財）：1861年に再建され、1942年に現在地に移築されました。
回廊
表門（国登録有形文化財）：1852年に再建され、1942年に現在地に移築されました。
太鼓橋（国登録有形文化財）：江戸時代末期に建立され、1942年に現在地に移築されました。
冠之渕：紀貫之が冠を落としたという伝説に基づき作られた池です。
弁財天社
南手水舎（国登録有形文化財）：1940年に再建され、1942年に現在地に移築されました。手水鉢には1694年の銘があります。
足神神社

文化財

国登録有形文化財

蟻通神社には、11件の建造物が国登録有形文化財として登録されています。
本殿
拝殿および幣殿
透廊
後門及び東西透塀
舞殿
絵馬殿
表門
裏門
南手水舎
北手水舎
太鼓橋

泉佐野市指定有形文化財

板地著色神馬図絵馬 3枚
板地著色三十六歌仙図絵馬 36枚 附:桐箱
蟻通奉納百首和歌

祭事

蟻通神社では、以下の祭事が行われています。

4月第2日曜 - 祈年祭（大祭）
9月下旬 - ありとほし薪能
10月 - 秋祭り（地車祭）

アクセス

JR西日本阪和線 長滝駅から徒歩15分。またはコミュニティバスで蟻通神社前下車。

脚注

注釈

出典

外部リンク

蟻通神社
蟻通神社ブログ
東京国立博物館/画像検索「見立蟻通明神図」
* ありとほし薪能

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