行動主義心理学

行動主義：心のブラックボックスを開ける試み

20世紀心理学において大きな影響を与えた行動主義。これは、心の内部状態に頼らず、観察可能な行動を通して科学的に心理学を研究できると主張するアプローチです。唯物論や機械論の立場に近く、心の存在を認めながらも、直接観察できない心の働きを研究対象とはしない点が特徴です。多くの行動主義者は、自由意志は錯覚であり、行動は遺伝と環境の相互作用によって決定されると考えていました。1950年代の認知革命によって主流派の座を認知心理学に譲りましたが、その影響は現代心理学にも色濃く残っています。

行動主義の主要人物

行動主義の発展には、多くの重要な研究者たちが貢献しました。

イワン・パブロフ: 条件反射（古典的条件づけ）の発見で知られる生理学者。彼の研究は、行動主義の基礎となりました。
エドワード・ソーンダイク: 試行錯誤学習を研究し、行動の強化と消去のメカニズムを解明しました。
ジョン・ワトソン: 内観法を批判し、心理学を客観的な行動科学として確立しようと試みました。彼の『行動主義者の立場からの心理学』は、行動主義運動の出発点となりました。
B.F.スキナー: オペラント条件づけの研究で知られ、徹底的行動主義という独自の行動主義体系を構築しました。彼の研究は、行動分析学という新たな学問分野を生み出しました。

行動主義のアプローチ：多様な視点

行動主義には、様々なアプローチが存在します。代表的なものを以下に紹介します。

ジョン・ワトソンと古典的行動主義

ワトソンは、意識ではなく行動そのものを心理学の研究対象とすることを主張しました。パブロフの条件反射研究に影響を受け、刺激と反応（S-R）の関係に焦点を当て、動物行動の研究を通して、環境への適応を解明しようと試みました。彼のアプローチは、後の新行動主義と対比して古典的行動主義と呼ばれます。

方法論的行動主義

行動の観察を心理学研究の主要な方法とする立場です。ワトソンは内的状態を一切考慮しませんでしたが、後の方法論的行動主義では、行動と環境の媒介として、生物体（organism）や内的状態を研究対象とするようになりました。クラーク・ハルやエドワード・トールマンなどが代表的な研究者で、トールマンの研究は後の認知主義への橋渡しとなりました。現在でも、実験心理学や認知心理学の多くは方法論的行動主義を採用しています。

B.F.スキナーと徹底的行動主義

スキナーは、徹底的行動主義という体系的な行動主義哲学を構築しました。彼は、意識や認知といった内的状態も観察可能な行動と同じ原理で説明できると考え、それらを二元論的な存在とはみなさず、科学的研究の対象に含めました。ワトソンの古典的行動主義や、新行動主義の方法論的行動主義とは異なる点です。

スキナーは、オペラント条件づけという概念を導入しました。これは、行動とその結果（強化）の間に機能的な関係があることを示すもので、ラットを用いたスキナーボックス実験などが有名です。彼は、強化スケジュールを変化させることで、行動の頻度やパターンを制御できることを実証しました。

スキナーの研究は、応用行動分析学として教育、医療、経営など様々な分野に応用されています。また、言語行動についても独自の理論を展開し、言語を他の行動と同様に関数分析できるとして研究しました。彼の著作『言語（的）行動』はチョムスキーから批判されましたが、現在でも言語行動の研究や応用（例：アクセプタンス＆コミットメント・セラピー）に影響を与えています。

行動の淘汰による理解

スキナーは、行動を理解するには、生物学的進化（自然淘汰）、個体発生における強化歴、そして文化という3段階の淘汰を考慮する必要があると主張しました。すべての行動は、これらの相互作用の結果であるという視点です。

哲学における行動主義

行動主義は、心理学だけでなく哲学にも影響を与えました。論理実証主義者たちは論理的行動主義を提唱し、心理的状態は行動によって検証可能であると考えました。クワインやライル、デネットといった分析哲学者も、行動主義的な立場をとり、心の哲学に貢献しました。ウィトゲンシュタインやチューリングも行動主義と関連づけられることがありますが、彼らの考え方は複雑で、単純に分類することはできません。

まとめ

行動主義は、心理学史において重要な役割を果たしたアプローチです。その様々なアプローチや概念は、現代心理学に大きな影響を与え続けており、現在も研究や応用が続けられています。行動主義の功績と限界を理解することは、心理学全体を理解する上で欠かせません。

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