行政解剖

行政解剖とは、死体解剖保存法に基づいて行われる解剖の一種で、主に監察医が実施します。この解剖は、死因が特定できない異状死体に対して、その原因を明らかにする目的で行われます。

法規上の定義

行政解剖には、狭義と広義の二つの意味があります。

狭義の行政解剖
死体解剖保存法8条に基づき、都道府県知事が任命する監察医が行う解剖を指します。この場合、死体解剖保存法7条3号と2条1項3号の規定により、遺族の承諾は原則として不要です。監察医が配置されているのは、東京都23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市などの特定の地域に限られています。

広義の行政解剖
死体解剖保存法2条1項に基づいて行われる解剖のうち、司法解剖と病理解剖を除いたものを指します。しかし、法律上、病理解剖と広義の行政解剖の間に明確な区別はありません。狭義の行政解剖と異なり、解剖を行うのは監察医だけではありません。広義の行政解剖のうち、狭義の行政解剖、食品衛生法に基づく解剖、検疫法に基づく解剖以外の場合は、原則として遺族の承諾が必要です。ただし、遺族の所在が不明な場合など、例外も存在します。監察医がいない地域では、県警察本部が「行政解剖実施要綱」を定め、これに基づいて解剖が行われることが多いです。

行政解剖の運用

行政解剖は、主に犯罪性のない異状死体に対して、死因を究明するために行われます。検視や検案の結果、犯罪性が疑われる場合は、刑事訴訟法に基づき司法解剖が行われることになります。

行政解剖の現状

監察医制度がある地域では、狭義の行政解剖が実施されています。一方、監察医制度がない地域では、地域の大学の法医学教室が中心となり、監察医制度に準じた形で解剖が行われます。しかし、この場合は狭義の行政解剖とは異なり、遺族の承諾が必要です。2013年4月には、「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」（死因・身元調査法）が施行され、遺族の承諾なしに警察署長の職権で解剖（新法解剖）を実施することが可能になりました。

関連法規

行政解剖に関連する法規には、死体解剖保存法の他に、食品衛生法、検疫法などが挙げられます。

その他の情報

行政解剖は、死因の究明を通じて、公衆衛生の向上や犯罪の防止に貢献しています。解剖結果は、医学の進歩にも役立てられています。

関連項目

オートプシー・イメージング
法医学
司法解剖
病理解剖
死体解剖保存法
検視
検案

参考文献

上野正彦『死体は語る』（文藝春秋、2001年）

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