上野正彦

上野正彦（うえの まさひこ、1929年1月1日 - ）は、日本の著名な法医学者、医事評論家、そして作家です。彼は元東京都監察医務院長であり、医学博士（日本大学）の学位を持ち、専門は法医学です。

人物

上野正彦は、5,000体以上の解剖と20,000体以上の検死を経験した、まさに「死体」の専門家です。茨城県で生まれ、幼少期を北海道美国町（現在の積丹町）で過ごしました。彼の父親は当地で開業医として地域医療に貢献し、名誉町民となっています。中学校進学のために上京し、1954年に東邦医科大学を卒業後、日本大学医学部法医学教室に入室。1959年には日本大学から医学博士号を授与されました。博士論文は「酸塩基平衡失調時の寒冷血球凝集反応」です。

同1959年、東京都監察医務院に監察医として勤務を開始。1984年には同院の院長に就任しました。その間、1981年から厚生省医道審議会委員、1984年からは杏林大学医学部の客員教授も務めています。1989年、監察医務院長を定年を待たずに退官。退官後に執筆した『死体は語る』は、社会に大きな衝撃を与えベストセラーとなりました。その後、テレビや雑誌など多方面で活躍し、日本推理作家協会の会員としても知られています。

文筆活動の傍ら、日本被害者学会理事、お茶の水医療福祉専門学校グループ名誉校長、杉並精神作業所アゲイン運営委員長、社団法人東邦大学東邦会監事など、多岐にわたる役職を務めました。法医学者の視点から見た独自の文芸作品は、多くの読者を魅了しています。

これまでタブー視されてきた遺体の世界を、「悲しくもあり、また不謹慎だが笑える仕事」として、一般の人々にも分かりやすく解説しました。彼の著作には、幼児虐待で命を落とした子供たちの悲劇、性別適合手術を受けた元男性の自殺、同性愛者間の独特な人間関係など、人間の深層心理や社会の闇を描いた内容が多く含まれています。

現役を引退した後も、北村晴男弁護士などからの依頼で遺体の再鑑定を行うことがあります。上野氏の持論として、無理心中や社会的孤立による自殺は、遺書があっても他殺として扱うべきであると主張しています。彼は、自殺が他殺に比べて簡易な捜査で終わってしまう現状に異議を唱え、「自殺者の人権が軽んじられている」と指摘し、「法医学者は死者の代弁者である」と訴えています。

担当した著名な事件・事故

上野正彦は、数多くの著名な事件や事故の検死、解剖を担当しました。

浅沼稲次郎暗殺事件
三河島事故
吉展ちゃん誘拐殺人事件：遺体の口元に生えたネズミモチから、死後2年が経過していることを突き止めました。
全日空羽田沖墜落事故：墜落時の怪我とされていた死因の多くが溺死であることを、遺体の錐体内出血から明らかにしました。これは、それまで心臓麻痺とされていた溺死原因が、三半規管の機能喪失によるものであることを上野が発見したことによるものです。
ホテルニュージャパン火災：事故当日の検死を担当しました。
恵庭OL殺人事件：控訴審から参加し、女性容疑者の単独犯とした鑑定書の杜撰さを指摘しました。絞殺に不向きなタオルが凶器とされたこと、焼死体が股を開いた状態であったことから強姦後の犯行である可能性を主張しました。

著書

上野正彦は、多数の著書を執筆しており、その一部を以下に示します。

『死体は語る』（時事通信社, 1989.9）
『死体は生きている』（角川書店, 1990.9）
『解剖学はおもしろい』（医学書院, 1994.4）
『死体は知っている』（角川書店, 1995.6）
『死体検死医』（角川書店, 1997.9）
『死体を語ろう』（時事通信社, 1997.5）
『毒殺』（角川書店, 1999.4）
『死体は告発する』角川文庫
『死体の叫び　保険金殺人鑑定』（ぶんか社, 2001.1）
『保険金殺人死体の声を聞け』角川文庫
『自殺死体の叫び』（ぶんか社, 2000.1）
『監察医が聞いた死体の祈り』（青春出版社, 2001.12）
『死体の嘘 世田谷一家殺人事件から『あしたのジョー』まで』（アスキー, 2001.10）
『ずっと死体と生きてきた』（ベストセラーズ, 2001.7）
『死体の涙　監察医が見た』（青春出版社, 2001.2）
『男と女の悲しい死体　監察医は見た』（青春出版社, 2003.11）
『上野正彦の「死体」論』（PHP研究所, 2004.12）
『ヒトは、こんなことで死んでしまうのか　監察医・上野正彦が死因の不思議を科学する』（インデックス・コミュニケーションズ, 2004.9）
『死の雑学－舌を噛み切っても死ねない理由』(イーストプレス,2005.12)
『女だけの死体ファイル　監察医が明かす』（青春出版社, 2005.10）
『「藪の中」の死体』（新潮社, 2005.4）
『死体は切なく語る』（東京書籍, 2006.6）
『死体に聴け 監察医という驚くべき仕事』（インデックス・コミュニケーションズ, 2006.9）
『死体は悩む － 多発する猟奇殺人事件の真実』（角川oneテーマ21, 2007.9）
『死体との悲しい約束 監察医が交わした』（青春出版社, 2007）
『死体は悲しい愛を語る』（東京書籍,2008.3）
『うっかり死んでしまわないための死の雑学』（イースト・プレス, 2008.3）
『死体を科学する』（アスキー新書, 2008）
『監察医が触れた温かい死体と冷たい死体』（朝日新聞出版, 2009.2）
『死因を科学する』（アスキー新書, 2009.8）
『死なないための智恵』（イースト・プレス, 2009.3）
『監察医が書いた死体の教科書 「8何の原則」が謎を解く』（朝日新聞出版, 2010.9）
『監察医の涙』（ポプラ社, 2010.6）
『死体の犯罪心理学』（アスキー新書, 2010.5）
『知識ゼロからの身体の不思議入門』（幻冬舎, 2010.4）
『死なない方法 日常に潜む「死」の危険から身を守るために』（イースト・プレス, 2011.2）
『法医学で何がわかるか』（青春出版社, 2011.7）
『自殺の9割は他殺である 2万体の死体を検死した監察医の最後の提言』（カンゼン, 2012/12/7）

共著・監修

『死体の証言 推理作家と法医学者が聞き出す 死者が語る隠されたドラマ 異色対談集』山村正夫共著（素朴社,1990.12）
『「死」をめぐる三つの話』共著（大法輪閣, 1996.7）
『死体は語る現場は語る』大谷昭宏共著（アスキー・コミュニケーションズ, 2002.11）
『日本の死体韓国の屍体』文國鎮共著（青春出版社, 2002.6）
『ザ・モルグ』監修（ぶんか社, 2005.9）

翻訳

『L.A.検死官極秘ファイル』トニー・ブランチ, ブラッド・シュレイバー 監訳 （イースト・プレス, 2003.11）
『美しき死体のサラン<純愛>　監察医が泣いた　天国で結ばれた女と男』ムーン・グッチン　監訳（青春出版社, 2004.6）

実写化作品

上野正彦の著作や活動を基にした実写化作品もあります。

助教授一色麗子 法医学教室の女（1991、テレビドラマ／日本テレビ系）
* 監察医・篠宮葉月 死体は語る（2001-2009、テレビドラマ／テレビ東京系）

上野正彦は、その豊富な経験と知識をもとに、死を通して人間や社会を深く考察し、多くの人々に衝撃と感動を与え続けています。

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