街角のメルヘン

『Radio City Fantasy 街角のメルヘン』は、1984年7月21日、ファイブエースより発売されたOVA作品です。54分の尺で、価格は9,800円と、当時のOVAとしては標準的な価格帯でした。OVA黎明期に製作された本作は、大都会新宿を舞台に、現実とメルヘンが交錯する独特の世界観を描いています。世界で3番目に制作されたOVA作品という歴史的価値も持ちますが、商業的には成功を収めず、VHS、Beta、LDでのみ発売され、DVDやBlu-ray化はされていません。そのため、現在では知名度が低い作品となっていますが、脚本を手掛けた首藤剛志氏にとっては、18歳の時に初めて執筆した脚本が映像化された、自身の原点となる作品として位置付けられています。

物語は、新宿駅西口の地下道で出会う浩と裕子の二人から始まります。出会いのきっかけは、地下道の壁に貼られた裕子のポスターに浩がぶつかったことでした。二人は次第に心を通わせていき、浩が持っていた「街角のメルヘン」というノートをきっかけに、現実とは異なる、幻想的な世界へと足を踏み入れていきます。物語は、現実世界とメルヘン世界の行き来を繰り返しながら、二人の恋の始まり、そして別れを描きます。

新宿副都心の箱庭のような空間、特に新宿中央公園を中心に展開する物語は、敢えてドラマチックな起伏を避けた構成となっています。しかし、浩と裕子の心の機微、そして二人の関係の変化は、淡くも鮮やかな色彩で丁寧に描かれています。夏から秋へと移り変わる季節の移ろいも、物語の背景として重要な役割を果たしています。

本作の大きな特徴の一つは、美術監督である小林七郎氏の卓越した手腕です。彼は、若者二人の心情を表現するために、新宿の街並みを心理描写のための装置として巧みに利用しています。都会の風景が、二人の心の動きを反映し、物語に深みを与えています。この独特の美術表現は、本作の大きな魅力の一つであり、多くのアニメファンを魅了してきた要素と言えるでしょう。

スタッフ陣も豪華な顔ぶれです。原案と脚本は首藤剛志、企画・プロデュースは宮田智行、総監督は西久保瑞穂が務めました。キャラクターデザインは天野嘉孝、遊佐和重、桜井利行、作画監督は田中平八郎、音楽はヴァージンVS、音響監督は松浦典良が担当。製作はキティ・フィルムです。声優陣には、永瀬正敏と藤田紗江子が起用され、当時の若手実力派俳優による熱演が物語に深みを与えています。

『Radio City Fantasy 街角のメルヘン』は、商業的には成功しなかったものの、OVAの歴史において重要な位置を占める作品です。その独特の世界観、繊細な心理描写、そして美しい美術表現は、現在でも多くのアニメファンを惹きつけ、語り継がれる作品となっています。DVD化されていないため、入手困難な幻の作品ではありますが、その存在を知るだけでも、アニメーション史における貴重な一作と言えるでしょう。

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