衝角付冑

衝角付冑（しょうかくつきかぶと）

衝角付冑は、古墳時代中期（4世紀末～7世紀）に日本で製作・使用された兜の一種であり、古墳の副葬品として出土する甲冑の中でも代表的なものです。板甲や小札甲と組み合わせて用いられました。

概要

その名の由来は、兜本体（鉢）の形状が、正面（前頭部）側が軍艦の舳先に付けられた「衝角」のように突き出ていることにあります。材質は鉄製が一般的ですが、鉄を地金とした金銅張りのものも存在します。また、大阪府堺市の七観古墳からは、鉢部が動物の革で作られたと考えられる珍しい例が出土しています。滋賀県近江八幡市の雪野山古墳（4世紀代）などから出土する「小札革綴冑」に替わるように、古墳時代中期初頭（4世紀末頃）に出現しました。

構造

衝角付冑は、主に以下の部位から構成されます。

鉢（はち）：兜の本体を構成する部分です。背面からU字形に湾曲させた帯状の鉄板2枚（腰巻板・胴巻板）を上下に並べて正面で合わせ、合わせ目の上に「伏板」と呼ばれる柄杓形の鉄板を取り付け、頭頂部から正面にかけてを覆います。腰巻板・胴巻板・伏板の間には、三角形または小札（こざね）と呼ばれる小鉄板、あるいは腰巻板などと同じ形状の帯状鉄板（地板）を内側から取り付け、全体を構築します。頭頂部には、「三尾鉄（さんびてつ・みおがね）」と呼ばれる、３本の筒状突起が付いた小鉄板が取り付けられた例があり、山鳥の尾羽が付けられていたと考えられています。
錣（しころ）：後頭部や首周りを防御するため、鉢の後頭部下部から垂らした帯状鉄板です。幅広の帯金1枚を取り付けるものや、２～４枚の帯金を重ねるもの、小鉄板（小札）を革紐で威して構成するものがあります。
衝角底板（しょうかくそこいた）：衝角部分の突出により、頭部との間に出来る隙間を埋める鉄板で、頭部側には竪眉庇が接続します。
竪眉庇（たてまびさし）：衝角底板に接続する帯状の鉄板で、兜を装着した人物の額を覆い防御します。

製作技術

鉄板同士の接続は、衝角付冑が出現する中期初頭（4世紀末）には、鉄板に開けた矧穴（はぎあな）に革紐を通して繋ぎ合わせる革綴（かわとじ）技法によって行われていました。しかし、中期中葉（5世紀中頃）に鉄鋲による鋲留（びょうどめ）技法が導入されると、急速に広まっていきました。これらの製作技術や構造の時期的変化は、板甲（短甲）のそれと連動しており、古墳時代の鉄製甲冑は、兜と甲をセットとして、畿内政権の一元的な管理・統制の元に製作され、全国の古墳被葬者（首長）に配布されていたと考えられています。

種類

製作技術と構造に基づいて、衝角付冑は大まかに下記のように分類されます。ただし、細部の技術・構造的な差異や、通常の規格から逸脱した異形タイプも存在するため、さらに細分することも可能です。

1. 三角板革綴衝角付冑：地板に三角形の鉄板を用い、革綴じ技法で製作されたもの。最も古い時期に出現した衝角付冑です。
2. 三角板鋲留衝角付冑：三角板の衝角付冑に鋲留技法が導入されたものです。
3. 竪矧細板鋲留衝角付冑：地板が三角形から、縦（竪）に細長い鉄板の矧ぎあわせに変化し、鋲留されたものです。
4. 小札鋲留衝角付冑：竪矧細板鋲留衝角付冑の細板が、より小さい鉄板（小札）の連続に切り替わったものです。
5. 横矧板鋲留衝角付冑：三角形板や細板・小札で構成されていた地板が、腰巻板・胴巻板と同じ横長の帯金に変化したものです。中期中葉以降に出現します。
6. 竪矧広板鋲留衝角付冑：地板が幅広で縦（竪）に長い鉄板の矧ぎ合わせに変化した、古墳時代後期に出現する衝角付冑です。銅巻板の消滅、衝角部の突出具合の低下、前頭部の伏板が衝角部と頭頂部で別作りになるなど、構造・デザイン上の変化が大きく、飛鳥・奈良時代を経て、のちの星兜の系譜へと繋がっていく可能性が指摘されています。東京国立博物館所蔵の国宝・埴輪武装男子立像は、このタイプの衝角付冑を装着しているとみられています。

衝角付冑は、古墳時代の甲冑製作技術や社会構造を知る上で貴重な資料であり、その形状や製作方法の違いから、当時の技術交流や階級制度を考察する上で重要な役割を果たしています。

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