被害者なき犯罪

被害者なき犯罪

被害者なき犯罪（ひがいしゃなきはんざい、英語: victimless crime）という概念は、1965年にアメリカのエドウィン・シャーとヒューゴ・ベドーによって提唱されました。この用語は、直接的な被害者の存在がない（ように見える）犯罪を指しています。具体的には、売春、賭博、違法薬物使用、堕胎、ポルノの頒布、自殺、不法移民、武器の所持などが代表的な事例として挙げられます。ただし、これらの行為に関しては、さまざまな立場からの見解があり、特に堕胎に関しては胎児を被害者とする意見や、動物権利の視点から動物虐待を問題視する立場も存在します。

概念の背景と動機

シャーらは、被害者が存在しないものの、社会的道徳に反するために法的に処罰されることがあると指摘しています。このような犯罪を非合法化することが、逆に個人の自由を抑圧し、犯罪組織の資金源を生む原因になるという立場もあり、多くの反対意見が存在します。犯罪者として扱われると、社会での受け入れが難しくなり、再犯のリスクも高まるため、非犯罪化すべきだとする意見もあります。

問題点と批判

被害者なき犯罪は、被害者とされる側の人間が加害者となることがあるため、刑事的な介入が難しいという特性があります。さらに、違法化しても根絶が難しく、新たな問題を引き起こす可能性が高いとの批判が寄せられています。たとえば、欧州では売春を違法化した結果、売春婦が危険な状況に置かれることが多くなり、これに対処するために公娼制度を復活させた国もあります。

アメリカでは、1920年に禁酒法が制定されましたが、その結果、闇での酒の取引が横行し、逆に犯罪が増加しました。この反省を踏まえて、1933年には禁酒法が廃止されました。また、現在の大麻に関する法律も同様で、違法化が逆に社会問題を加速させるとの指摘があります。オランダでは、大麻の取引を一定条件下で合法化し、アメリカの一部の州でも娯楽用大麻が合法化されています。

具体的な例と国際的な動向

例えば、薬物に関して、原則合法化のもとで医者から処方する制度が提案されています。この方法により関連犯罪が減少し、税収も期待できるとの意見がありますが、一方で薬物使用者自身が被害者となるという懸念も存在します。ヨーロッパでは、薬物中毒者に対して医師の監視のもとで薬物を提供する試みなどが行われています。

最後に

被害者なき犯罪の概念は、個人の自由と社会の安全という二つの視点の間で揺れ動いています。国や地域によって法律が異なるこの問題は、いかにして個人の権利を尊重しつつ、社会全体の安全を保つかという難題をはらんでいます。

もう一度検索