裁判外紛争解決手続

裁判外紛争解決手続（ADR）とは？

裁判外紛争解決手続（Alternative Dispute Resolution; ADR）は、裁判に頼らず紛争を解決するための様々な方法を包括的に指す言葉です。訴訟のような公式な手続きを経ずに、当事者同士が話し合いで解決を目指す、または第三者機関の仲介によって解決を図る方法がこれにあたります。ADRは、当事者全員の合意がなければ開始できません。2004年（平成16年）に関連法律が制定され、日本でも制度的に整備が進んでいます。

ADRは、当事者同士による直接交渉と、裁判所による法的裁定の中間に位置づけられます。解決方法としては大きく分けて2種類あります。1つは、当事者同士の話し合いによって合意形成を目指す方法、もう1つは、仲裁のように第三者の判断が当事者を拘束する方法です。

ADRの種類

主なADRの種類として、あっせん、調停、仲裁が挙げられます。

あっせん: あっせん人は、当事者間の交渉を円滑に進めるためのサポート役として機能します。解決案の提示を行う場合もありますが、あくまでも当事者間の合意に基づく解決を目指します。あっせん人の提案は拒否することもできます。
調停: あっせんと同様に当事者間の合意を前提としますが、調停人は当事者の意見を聞き取った上で調停案を作成し、当事者の賛否を問います。あっせんに比べて、調停人はより能動的に解決案を提示します。
* 仲裁: 事前に当事者間で仲裁を受けることに合意（仲裁合意）した場合に、仲裁人が紛争の解決を決定します。この仲裁判断は当事者を拘束し、拒否できません。また、控訴や上告などの不服申立ては認められず、原則として裁判による異議申し立てはできません。

なお、ADR機関によって名称や内容は異なる場合があります。「あっせん」と名付けられていても、実際の内容は「調停」に近いものもあるため、利用する際には各機関の制度内容をよく確認する必要があります。

ADRの一般的な流れ

ADRを利用するには、まずADR指定機関に申立てを行います。機関が相手方に連絡し、相手方がADR手続への参加に合意すれば手続が開始されます。合意が得られない場合は、手続は開始されません。また、ADRによる解決が困難と判断された場合も却下されることがあります。

手続開始後は、あっせん人、調停人、仲裁人が選任されます（複数候補から当事者が選ぶ場合もあります）。その後、あっせん、調停、仲裁の手続きが行われます。ADRの手続きにおいては、弁護士が代理人として活動することが多いですが、司法書士、弁理士、社会保険労務士、土地家屋調査士なども一定の条件下で代理人を務めることができます。弁護士、司法書士、弁理士は、ADR機関への申立書類の作成を業務として行うことができます。

あっせんや調停の場合、当事者間の合意が成立すれば手続は終了します。一方、仲裁では仲裁人が下した判断が最終的な決定となり、当事者はこれを覆すことができません。

民事[[訴訟]]との違い

ADRは、当事者間の任意交渉がうまくいかなかった場合の紛争解決手段です。民事[[訴訟]]と比較すると、ADRにはいくつかの利点があります。費用が比較的安く済むこと、非公開であるためプライバシーや企業秘密が守られること、訴訟では参加できない利害関係者も解決に巻き込むことができること、厳密な事実確認を必要としないことなどが挙げられます。裁判所にとっても、ADRの活用は紛争処理の負担軽減につながります。

しかし、ADRにも欠点があります。仲裁を選択した場合、裁判を受ける権利を失うこと、話し合いベースのADRでは必ずしも解決に辿り着けるとは限らないこと、仲裁判断以外の決定は債務名義にならないため強制執行には公正証書が必要になる場合があること、ADR機関が一方当事者と密接な関係にある場合、不公平な判断が下される可能性があることなどです。

事業再生ADR

事業再生ADRは、経営困難に陥った企業が、会社更生法や民事再生法などの法的整理に頼らず、債権者との話し合いによって事業再生を目指すためのADRです。2007年の産業活力再生法改正によって制度化され、事業再生実務家協会が唯一の認証機関となっています。

事業再生ADRには、税務上の優遇措置を受けられること、取引先への影響が少ないこと、事業価値の毀損が少ないこと、手続きの質が高いことなどの特徴があります。合意形成に至らない場合は、法的整理に切り替えることも可能です。2018年の産業競争力強化法改正により、法的整理への移行時の商取引債権保護に関する規定が明記され、利便性が増しました。上場企業の場合、法的整理とは異なり、上場廃止とはなりません。ただし、一定の条件下では上場廃止となる可能性があります。

ADR機関

ADRの手続きは、紛争当事者と無関係な第三者機関である「ADR機関」によって行われます。機関は、司法機関、行政機関、民間機関に分類できます。日本には多くのADR機関が存在し、それぞれの機関で取り扱う紛争の種類や手続きが異なります。

日本のADR推進

日本においては、訴訟手続きの課題を補い、より手軽に紛争解決できる手段としてADRの推進が進められています。司法制度改革審議会の提言をきっかけに、ADR法（裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律）が制定され、関係機関の連携強化、情報提供の充実、専門家の活用などが図られています。

参考文献

本文中に記載されている書籍の他、ADRに関する多くの書籍や論文が出版されています。これらの資料を参照することで、より詳細な情報を得ることができます。

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