西久保八幡貝塚

西久保八幡貝塚：縄文人の生活を伝える貴重な遺跡

西久保八幡貝塚は、東京都港区虎ノ門5丁目の西久保八幡神社境内に位置する、縄文時代の貝塚です。所在地は虎ノ門の最南端にあたり、六本木から南東方向に延びる台地上にあります。現在は内陸にありますが、縄文時代には縄文海進の影響で海面が高く、比較的海岸に近い場所でした。開発が進む東京において、良好な状態で残る貴重な貝塚として、東京都指定文化財（史跡）に指定されています。

発見と調査

この貝塚の存在は、1933年の調査で初めて確認され、縄文時代後期の貝塚として知られていました。本格的な調査は、1983年に東京都教育委員会が実施した都心部遺跡分布調査によって行われました。神社社殿裏に溝を掘り、貝層の状況などが詳しく調べられました。

貝層の構造と出土品

調査の結果、台地の斜面には2層の貝層が確認されました。下層は堀之内Ⅱ期から加曾利BⅠ期にかけて形成されたもので、ハイガイやハマグリが主体です。上層は加曾利BⅡ期から曽谷期のもので、オキシジミガイやオオノガイが多く含まれています。これらの貝はいずれも海水産です。

貝層からは、多種多様な貝、魚、動物の骨が出土しました。貝類は28種類、魚類は23種類、両生類は3種類、爬虫類は2種類、鳥類は2種類、哺乳類は8種類です。貝層の上層と下層では、主要な貝の種類が異なり、魚骨の種類も上層ほど少なくなっています。哺乳類では、ウサギ、タヌキ、キツネ、シカ、イノシシなどの骨が見つかっていますが、特にイノシシの骨が多数出土しています。

土器も豊富に出土しており、深鉢形土器、鉢形土器、注口土器など、丁寧に磨かれた精製土器や、比較的シンプルな粗製土器が見つかっています。また、石器や牙・骨製品も発掘されており、骨角器製作に使われたとみられる砥石も見つかっています。

貝塚の性格

近隣の伊皿子貝塚や丸山貝塚では、貝殻が大量に出土する一方で、土器や獣魚骨は比較的少ないことから、貝の加工場跡と考えられています。これに対し、西久保八幡貝塚では、貝殻の量に対して土器や石器、獣骨などが多く見られることから、この付近に人々の住居があり、生活に伴うゴミ捨て場として利用されていたと考えられています。

西久保八幡貝塚は、縄文時代の人々の生活様式や食生活を知る上で、非常に重要な遺跡です。良好な保存状態であることも特筆すべき点で、今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

参考文献

東京都教育庁社会教育部文化課 編　東京都都心部遺跡分布調査団報告『都心部の遺跡』東京都教育委員会、1985年。
港区教育委員会事務局図書・文化財課文化財係（港区立港郷土資料館)『伊皿子貝塚と港区の貝塚』港区教育委員会〈港区考古学ブックレット１港区の先史時代Ⅰ〉、2002年。
* 大坪庄吾 著　歴史教育者協議会 編『東京の貝塚と古墳を歩く』大月書店〈こだわり歴史散歩5〉、1995年。ISBN 4-272-61075-9。

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