西澤晋

日本の男性アニメーター、アニメ監督。1962年 7月9日生まれ。キャリアを通じて多くの人気アニメ作品に携わり、原画、絵コンテ、演出、監督といった様々な役割を果たしている。

アニメーターを目指した道程

西澤氏がアニメーションの世界を志すきっかけとなったのは、中学生の頃、理髪店でたまたま手に取った雑誌記事だった。当時すでにアニメは好きで、漠然とアニメーターになりたいという思いは抱いていたものの、その具体的な方法や必要な技術レベルは分からずにいた。雑誌に掲載されていたのは、漫画家志望者がまずアニメーターとして実力を培ったという成功事例で、この記事を読んだ西澤氏は「これほど絵が描けなければプロにはなれないのか」と、自らの目標を明確に捉えるようになったという。

高校時代に入ると、当時の社会現象ともなったアニメ『宇宙戦艦ヤマト』に強い影響を受け、その漫画化に熱中した。カセットテープで音声を録音し、それを聞きながらノートに絵と台詞を配置して漫画形式で描くという作業を、継続的に行った。進学校に通っていたため予習が必須であったが、それでも絵を描くための時間を懸命に作り出し続けた。高校3年生の夏休みには、『ヤマト』漫画化計画を完成させるべく作画ペースを上げ、休暇期間のほとんどをこの制作に費やした。

人物像とアニメーション哲学

西澤氏は、アニメーターとしての描画能力を高めるためには、「一枚の絵を精緻に仕上げるよりも、とにかく多くの枚数を描くこと」が重要だと考えている。サンライズで行われた、演出家を目指す制作進行向けの講座では、受講者に対し「とにかく描け」と指示し、週に40ページというペースでリアル系漫画の模写を課題として課した。西澤氏によると、わずか二、三ヶ月という短期間であったが、ほとんど模写経験がなかった参加者たちも、確かな描画力の向上を示したという。

また、映像表現においては広角レンズの使用に懐疑的な姿勢を示している。その理由として、広角レンズによって生じる画面の歪みが、視聴者の感情移入を妨げる要因となりうると指摘する。西澤氏は、映画やドラマの面白さは「物語そのものの魅力」と「視聴者が作品世界に感情的にどれだけ入り込めるか」の相乗効果で生まれるものだと論じる。内容がどんなに優れていても、見る側が感情的に没入できなければ、それは「他人事」として映り、作品の力は半減してしまうという。

西澤氏によれば、広角レンズで撮影された映像は、人間の脳が「現実にはあり得ない画角」として認識しやすい。これは、私たちが普段目で見る現実世界の視野感覚と、広角レンズ特有の歪曲された映像との間にずれが生じるためだ。この不自然さが、視聴者を現実感から引き離し、感情的な結びつきを阻害すると説明する。こうした考えに基づき、西澤氏は制作において「現実の引き出し」、つまり現実の視覚体験に即した映像表現を非常に重要視している。視聴者が作品を観る際に、現実と同じような感覚で自然に感情移入できるような映像作りを目指している。

現実の視覚感覚を養うため、西澤氏は特に1970年代から1990年代前半に制作された映画、中でも木村大作氏の作品を観ることを推奨している。これらの旧作は、多くが望遠レンズを使って撮影されており、画面内に消失点が明確に現れるカットは非常に少ない傾向にある。西澤氏は、消失点を意識させないフラットな画面構成こそが映画的な表現であり、それが自然な感情的没入を促す技法だと評価している。

主な参加作品

西澤氏はアニメーターとして『太陽の牙ダグラム』、『機動戦士ガンダムF91』、劇場版『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』などに参加。絵コンテ・演出として『ふしぎ遊戯』、『勇者王ガオガイガー』、『犬夜叉』、『機動戦士ガンダムSEED』、劇場版『銀魂完結篇万事屋よ永遠なれ』など、多数の作品に関わった。

監督としては、劇場アニメ『め組の大吾火事場のバカヤロー』（1999年）で劇場作品初監督を務めた。テレビシリーズでは『ヒカルの碁』（2001年）、『霊剣山叡智への資格』（2017年）で監督を務め、シリーズ構成や脚本も兼任した。近年では人気シリーズ『七つの大罪神々の逆鱗』（2019年-2020年）、『七つの大罪憤怒の審判』（2021年）で監督を務めている。OVA作品では『マップス』（1994年-1995年）、『機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER』（2006年）で監督、脚本、絵コンテ、演出を担当するなど、主導的な立場で多くの作品を生み出している。その他、『ジョジョの奇妙な冒険』、『機動戦士ガンダム水星の魔女|機動戦士ガンダム_水星の魔女』、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』など、話題作にも広く携わっている。

著書

アニメ制作における実践的な知見をまとめた書籍も執筆している。代表作に『リアルなキャラクターを描くためのデッサン講座』（2009年）、そしてその内容を増補改訂した『増補改訂リアルなキャラクターを描くためのデッサン講座』（2022年）がある。これらの書籍を通じて、自身の作画理論や指導法を紹介している。

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