西芳照

西 芳照（にし よしてる）

西芳照氏は、1962年1月23日生まれ、福島県南相馬市出身の著名な料理人です。特に、サッカー日本代表の専属シェフとして長きにわたりチームを支えたことで広く知られています。

料理人としての歩み

高校卒業後、大学受験に失敗した西氏は東京で予備校に通っていましたが、友人の誘いで始めた居酒屋でのアルバイトをきっかけに料理の道へ進むことを決意します。料理の楽しさに目覚めた後、「京懐石よこい」で約5年間の修行を積み、やがて東京にある懐石料理店の総料理長を務めるほどの腕前を持つに至りました。

故郷への帰還とJヴィレッジ

1997年、故郷に近い福島県双葉郡楢葉町に、日本初のサッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」が建設される計画を聞きつけます。「自然豊かな環境で子どもを育てたい」という強い思いから、故郷への帰還を決断。Jヴィレッジのフードサービス業務を担うエームサービスに入社し、「Jヴィレッジ事業所」に配属されます。施設内のレストラン「アルパインローズ」で勤務を始め、1999年には総料理長に就任。この頃から、アスリート、特にサッカー選手の栄養管理を考慮した食事提供に取り組むようになります。

日本代表シェフ就任の経緯

2004年3月、日本サッカー協会（JFA）から、2006 FIFAワールドカップアジア2次予選を控えたサッカー日本代表の遠征にシェフとして帯同してほしいとの依頼を受けます。この異例の依頼は、直前にアテネオリンピックアジア最終予選が行われたアラブ首長国連邦で、U-23日本代表メンバーが集団食中毒に見舞われた出来事が契機となりました。これ以降、西氏はエームサービスからの派遣という形で、日本代表の重要な海外遠征に欠かせない存在となります。遠征期間以外はJヴィレッジの「アルパインローズ」で働くという日々が続きました。

東日本大震災からの復興と挑戦

2011年3月、西氏は勤務していたJヴィレッジで東日本大震災に遭遇します。福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示を受け、一時的に東京へ避難し、エームサービス本社事業部で勤務しました。しかし、「被災した地元のために、自分にできることで貢献したい」という強い思いを抱き続け、同年6月にはエームサービスを退社することを決意します。同年9月には、原発事故対応の拠点となっていたJヴィレッジ内に喫茶店「ハーフタイム」を開業し、福島での活動を再開させました。さらに11月には、自らの会社である株式会社DREAM24を設立。広野町の二ツ沼総合公園内にあった「ふるさと広野館」を借り受け、レストラン「アルパインローズ」を新たにオープンさせ、被災地の復興に食の面から貢献しようと奮闘します。

サッカー界との深い関わりと新たな分野

エームサービスを退社した後も、日本サッカー協会からの継続的な要望に応え、サッカー日本代表の専属シェフとしてチームへの帯同を続行。FIFAワールドカップには、2006年のドイツ大会から2022年のカタール大会まで、実に5大会連続で日本代表チームの「食」を支える重責を担いました。カタール大会で日本代表が敗退した後、自身のSNSで代表専属シェフからの勇退を表明しましたが、その後もサッカー界との繋がりは続いています。Jリーグクラブからのオファーに応じ、海外遠征に帯同したり、2023年に開催されたFIFA女子ワールドカップにはなでしこジャパンの専属シェフとして帯同しています。サッカー界で培ったその手腕は他競技からも注目され、2023年にフランスで開催されたラグビーワールドカップでは、日本ラグビーフットボール協会からの要請を受け、ラグビー日本代表の帯同シェフも務めました。自身の経験が少しでも役に立つならと快諾したといいます。

飲食店の経営変遷と現在の活動

震災後の地元での事業として、広野町でのレストラン経営に加えて、2016年3月には広野町の商業施設内にフードコート「くっちぃーな」を開業しました。広野町の「アルパインローズ」は2018年2月に閉店しましたが、同年10月にはいわき市にオープンしたいわきFCの拠点施設内にレストラン「NISHI's KITCHEN」を開店。代表帯同と並行して運営を続けました。この「NISHI's KITCHEN」はいわきFCパークから鹿島ショッピングセンターエブリア内に移転しましたが、2024年1月5日をもって閉店しています。しかし、西氏の活動は留まることを知りません。2024年8月には、道の駅なみえ内の「フードテラスかなで」の総料理長に就任。さらに、キッチンカーを活用し、日本各地のイベントなどで移動販売を行うなど、活躍の場を広げています。また、2024年6月には、教育出版が発行する2025年度から使用される中学3年生用の英語教科書に、西氏が登場することが発表され、そのキャリアが教育分野でも紹介されることになりました。

食へのこだわりとエピソード

学生時代は剣道部や山岳部に所属するなどスポーツ自体は好きだったものの、Jヴィレッジで働くようになるまでサッカーとはほとんど縁がなかったという西氏。Jヴィレッジ開業時も、当初は単なるホテルができると思っていたという逸話も残っています。日本代表選手への食事提供においては、選手自身が食べる量や栄養バランスを調整しやすいようビュッフェ形式を採用しています。以前は準備された料理が冷めて選手があまり食べないことがあったと聞き、提供直前に最終調理を行う「ライブクッキング」スタイルを取り入れ、常に温かい出来立ての料理を提供できるよう工夫しました。また、代表チームの夕食には、試合日程に合わせた決まった献立ローテーションが存在します。試合3日前はハンバーグ、2日前は銀だらの西京焼き、試合前日はウナギの蒲焼、そして試合当日（試合後）はカレーというのが定番となっており、このルーティンを崩すと選手から要望が出ることもあるほど、チームにとって重要な一部となっています。広野町での「アルパインローズ」経営は困難な時期もありましたが、元日本代表監督の岡田武史氏がスタッフを連れて訪れるなど、サッカー関係者やファンからの温かい支援に支えられたといいます。

西芳照氏は、その卓越した料理の技術とアスリートの栄養を考え抜く姿勢、そして東日本大震災で被災した故郷への深い愛情と貢献への意欲を持ち続け、食を通じて日本のスポーツ界や地域社会を支え続けている存在です。

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