西赤尾八幡社

富山県南砺市の西赤尾地区に静かに鎮座する西赤尾八幡社は、五箇山地方の歴史と人々の信仰心を色濃く映し出す古社です。庄川の西岸、かつての上平村にあたる西赤尾集落に位置し、境内に伝えられるご神体一群は、その歴史的な価値から南砺市の指定文化財となっています。

由緒と歴史

古文書「新屋道場由来記」によれば、中世の赤尾谷地域は複数の勢力に分かれていました。その中で西赤尾集落は、庄川西岸南部の地域に属していました。この地では、西赤尾集落と下嶋集落が特に強固な結びつきを持ち、西赤尾八幡社は地域に現存する行徳寺とともに、両集落が共有する信仰の中心地として発展してきました。江戸時代の記録にもその名は見え、正徳2年（1712年）の「五ヶ山村々神号之覚」には、西赤尾・下嶋両村の寺であり、砺波郡北野村の山伏寺、海乗寺の管轄下にあったことが記されています。また、明治13年（1880年）の神社寺院台帳には、創建の正確な時期は不明ながらも、当時すでに氏子が52戸を数えていたことが記録されており、古くから地域社会に根ざした存在であったことがわかります。現在の社殿は、昭和51年（1976年）に建築されたものです。

地域の伝承

この地域には、厳しい自然の中で生きる人々と動物の関係を示す興味深い伝承が伝わっています。かつて五箇山一帯には多くの狼が生息していましたが、西赤尾八幡社（赤尾の宮）と、庄川対岸にある東赤尾八幡宮（上野の宮）にそれぞれ狼が祀られていることから、この二つの神社の間だけは狼が通らなかったと語り継がれています。これは、五箇山ならではの環境が育んだ、信仰と自然が結びついた伝承と言えるでしょう。

南砺市指定文化財のご神体群

西赤尾八幡社の最も重要な特色の一つは、南砺市指定文化財となっているご神体一群です。これらは木製の座像、立像、石像をはじめ、菩薩像、観音像、右大臣・左大臣像など、多岐にわたる合計15体で構成されています。これらの像は、その様式などから鎌倉時代から室町時代にかけて制作されたものと推定されており、五箇山における中世から近世初頭の信仰文化や彫刻技術を示す貴重な資料です。

収蔵される像の中でも、特に中心となるのは、最も大きい三体の御神像です。これらは八幡信仰における主要な神々、八幡三神（八幡大神、息長帯姫命、比咩神）を表していると考えられています。中央に位置する八幡大神像は、袈裟を着けた僧侶の姿で表現されており、神仏習合の影響が見られる僧形八幡神の形式をとっています。その両脇に立つ二体は、息長帯姫命と比咩神にあたるとみられ、それぞれ垂髪で袖の長い小袖をまとう姿で表されており、男神と女神の組み合わせとなっています。

これらのご神像の彫刻には、高度な技術というよりは、むしろ素朴で力強い表現が見られます。この作風から、これらの像は専門の仏師ではなく、五箇山に暮らす地元の人々によって、信仰心に基づいて刻まれた可能性が示唆されています。像にはわずかに白い顔料である胡粉の痕跡が残っており、かつては彩色が施されていたことがうかがえます。特に八幡三神像は、かつて厨子の中に安置されていたと考えられ、細い目や小さい口元といった特徴的な表情と相まって、神秘的な雰囲気を醸し出していたと評されています。

このご神体一群は、昭和44年（1969年）10月1日に当時の上平村の文化財に指定され、その後の市町村合併により南砺市が誕生した後も、引き継がれて市の文化財として大切に保護されています。西赤尾八幡社のご神体群は、厳しい山間部における人々の篤い信仰、地域社会の結びつき、そして独特の文化が融合した五箇山地方の歴史を物語る貴重な存在です。

西赤尾八幡社は、その長い歴史、地域との深い関わり、そして貴重な文化財を通じて、五箇山地方の精神文化を今に伝える重要な場所と言えるでしょう。

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