行徳寺

富山県南砺市の西赤尾地区に静かに佇む行徳寺は、真宗大谷派に属する寺院です。かつて江戸時代には、この五箇山地域において二箇所のみに許された特別な「寺身分」を持つ寺院の一つであり、とりわけ赤尾谷地域全体の信仰と生活の中心を担う重要な存在でした。

歴史

赤尾道宗による開創

行徳寺の歴史は、室町時代の後半に遡ります。文明年間（1469～1487年）、本願寺第八代宗主である蓮如上人が越前国（現在の福井県）の吉崎御坊に滞在されたことは、北陸地方に真宗信仰が急速に広まる大きな契機となりました。この波は五箇山地方にも及び、真宗が本格的に根を下ろし始めます。五箇山へ最初に教えをもたらしたとされるのは越前国の和田本覚寺であり、その門徒で赤尾谷出身の浄徳という僧侶がいました。この浄徳の甥にあたる人物こそが、妙好人としても名高い赤尾の道宗であり、彼は行徳寺の実質的な開祖と位置付けられています。

道宗の生涯や詳細な来歴については諸説ありますが、蓮如上人の著作中にしばしば言及されていることから、両者が同時代を生きた人物であることは確実視されています。道宗は熱心に蓮如上人のもとへ通い、その教えを深く請うたと伝えられています。彼が収集し、自ら書き写したとされる蓮如上人の書簡（御文）の一部は、現在も行徳寺に大切に保管されています。

また、行徳寺には蓮如上人直筆とされる六字名号（南無阿弥陀仏の名号）が五点も伝わっています。これらの名号が寺に備えられたことが、行徳寺の前身である「赤尾の道場」を形成する上で中心的な役割を果たしたと考えられています。道宗が文亀元年（1501年）12月24日に記したとされる「心得二十一カ条覚書」の中には「御道場」への言及があり、このことから、遅くとも1501年には行徳寺につながる道場が既に成立していたことが確認できます。

蓮如上人の没後も、道宗と本願寺との密接な関係は続きました。永正10年（1513年）11月27日には、本願寺第九代宗主である実如上人より阿弥陀如来絵像が下付されています。道宗の生年には諸説あるものの、没年については、蓮如上人の第二十三子である実悟が残した『実悟記』により、永正13年（1516年）に生涯を終えたことが明らかになっています。

越中一向一揆と掟

中世の赤尾谷地域は、現在の平瀬・西赤尾・新屋といった庄川沿いの三つの地域に分かれ、それぞれ平瀬氏、角淵氏、高桑氏といった在地勢力が治めていたと伝えられています。後に「大永五年赤尾三村掟」で言及される「赤尾三村」は、これら三氏が支配した地域を指すと考えられます。

一方、蓮如上人の時代に急速に門徒を増やした浄土真宗の勢力は、各地で一向一揆と呼ばれる門徒による集団行動を起こしました。越中においても、砺波郡では瑞泉寺や勝興寺などが中心となり、実効支配を行うほどでした。越中一向一揆における行徳寺の具体的な立ち位置は明確ではありませんが、大永5年（1525年）に本願寺から当地へ下付された「大永五年赤尾三村掟」と称される古文書が行徳寺に今も残されています。

この掟に先立ち、北陸一帯で過熱する一向一揆の武力闘争を憂慮した本願寺第九代宗主実如上人は、永正15年（1518年）に三か条の掟（戦いを戒める内容など）を門徒へ示していました。そして、大永5年（1525年）2月2日に実如上人が亡くなる直前、再び門徒に対し、武士を敵としないこと、所領問題に関与しないこと、そして王法（世の道理）を守り、仏法を大切にすることを改めて命じられたとされています。「大永五年赤尾三村掟」は大永5年3月5日付であり、まさに実如上人の死去直後に、遠く山科本願寺から五箇山赤尾谷へ届けられた掟であることがわかります。この古文書は、当時の本願寺宗主と五箇山地域との間に結ばれていた緊密な関係を示す貴重な史料として評価されています。

寺基の確立と近世・近現代

行徳寺の歴代住職については、詳細がやや異なるものの三種類の系図が残されています。しかし、いずれの系図も第三世・西円以降、江戸時代中期までの住職の名前が欠落しています。江戸時代の中期にあたる17世紀末から18世紀初頭にかけては、玄入という名の住職が寺務を担っていたことが、彼の署名が残る古文書からうかがえます。また、延享3年（1746年）には浄貞、宝暦6年（1756年）には浄入という住職が、それぞれ親鸞聖人や蓮如上人、七高祖の御影（絵像）の下付を受けた記録があり、寺としての体制が整えられていった様子がうかがえます。歴代住職表は、智浄（第十二世～第十三世）の代で「現住」と注記がされていることから、この頃に歴代住職表が作成され始めたと考えられています。智浄は18世紀末から19世紀前半にかけての人物であり、文政6年（1823年）7月24日には彼が御絵像の下付を受けた記録があり、これにより行徳寺は本尊を中心とする重要な「五尊」の全てを揃えることとなりました。しかし、天保3年（1832年）からは天保の大飢饉が五箇山にも深刻な影響をもたらし、天保8年（1837年）には飢饉による犠牲者の法名が記録された「法名帳」が作成されています。

江戸時代の終わり頃、第十五世住職である鳳龍の時代にあたる元治元年（1864年）には、現在の庫裡（住職の居住空間）が改築されました。この改築に際して残された「職人々足覚帳」によれば、当時の他の建築物と同様、氷見郡（現在の氷見市）の大窪村の棟梁や大工によって手掛けられたことがわかります。

明治維新後、鳳龍の代の明治32年（1899年）5月には、開祖である道宗の三百五十回忌と移骨式、そして蓮如上人の四百回忌といった重要な法要が執り行われました。第十七世住職、龍明の時代には、寺の裏山にあった広大な桑畑を水田へと転換する大規模な開墾事業が進められました。この工事は明治38年（1905年）6月2日に始まり、明治41年（1908年）11月20日に完了しています。この地域開発に貢献した龍明の功績を称え、昭和12年（1937年）9月には彼の銅像が行徳寺の境内に建立されました。なお、この開墾された土地の一部は、現在、タカンボースキー場の敷地として利用されています。

本覚寺下道場としての系譜

前述の通り、行徳寺は越前国（現在の福井県）の和田本覚寺を本寺とする道場として始まりました。周辺の赤尾谷や上梨谷にある真宗寺院のほとんども、元をたどればこの和田本覚寺の末寺（道場）でした。戦国時代に和田本覚寺の末寺であった各地の道場は、江戸時代初めに本願寺が東西に分派した際に、それぞれ東本願寺系の小松本覚寺と、西本願寺系の鳥羽野万法寺のどちらかに属することとなり、その系統は今日まで続いています。赤尾道場（行徳寺）は、比較的早い時期に寺身分を得たため、江戸時代中期には、行徳寺を本寺とする道場、例えば下嶋道場などが新たに形成される動きも見られました。

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