要介護認定

要介護認定とは

要介護認定は、日本の介護保険制度において、被保険者が介護や支援を必要とする状態かどうかを判定する重要なプロセスです。この認定を受けることで、介護保険サービスを利用できるようになります。

要介護認定の種類

介護保険法では、介護を必要とする状態を「要介護」、見守りや支援が必要な状態を「要支援」と区別し、それぞれ認定が行われます。これらの認定を総称して「要介護認定」と呼ぶことが一般的ですが、厳密には「要介護認定等」と表記するのが適切です。

- 要介護認定：日常生活において常時介護を必要とする状態。
- 要支援認定：日常生活において支援を必要とする状態。

要介護認定の流れ

1. 申請：介護保険の被保険者は、市区町村に要介護認定を申請します。
2. 認定調査：市区町村の調査員が自宅や入所先を訪問し、心身の状態や生活環境について調査を行います。
3. 主治医意見書：市区町村は、申請者の主治医に意見書の作成を依頼します。
4. 一次判定：認定調査と主治医意見書に基づき、コンピュータで介護に必要な時間（要介護認定基準時間）を算出します。
5. 二次判定：介護認定審査会が、一次判定結果、調査結果、主治医意見書を総合的に判断し、要介護度と認定有効期間を決定します。
6. 結果通知：市区町村から被保険者へ認定結果が通知され、介護保険被保険者証に記載されます。

要介護度

介護の必要度に応じて、要支援1から要介護5までの7段階に区分されます。

- 要支援1・2：日常生活に支援が必要な状態。
- 要介護1～5：日常生活に介護が必要な状態。

最も軽度な要支援1にも該当しない場合は「自立」と判断され、介護保険給付の対象外となります。ただし、市区町村によっては地域支援事業等のサービスが利用できる場合があります。

要介護状態と要支援状態

- 要介護状態：身体や精神の障害により、入浴、排泄、食事などの日常生活動作に継続的な介護が必要な状態。介護度に応じて要介護1から要介護5の区分があります。
- 要支援状態：身体や精神の障害により、日常生活動作の支援、または介護予防のための支援が必要な状態。要支援1と要支援2の区分があります。

制度改正

2000年の介護保険法制定時には要支援状態の区分は存在せず、2006年の制度改正で、要介護1を分割し、状態維持・改善の可能性に基づいて要支援2が新設されました。

要介護認定の申請

申請者

申請は原則として本人ですが、家族や民生委員、医療機関のソーシャルワーカーなどが代行することも可能です。指定居宅介護支援事業者や介護保険施設も代行できます。

申請区分

- 新規申請：初めて要介護認定を受ける場合。
- 住所移転後の新規申請：引っ越し後に新たに申請する場合。
- 更新申請：認定有効期間の満了に伴い、再度認定を受ける場合。
- 区分変更申請：現在の要介護度を変更したい場合。

行政指導

サービス利用の見込みがない場合、市区町村から申請を控えるよう指導されることがありますが、申請する権利はあります。

結果通知前の申請

新規申請後に状態が悪化した場合は、結果通知前でも区分変更申請が可能です。

申請前のサービス利用

原則として、認定日以前のサービス利用は保険給付の対象外ですが、緊急時は特例給付が認められる場合があります。

申請に基づく認定の取消

被保険者の申請により、要介護認定を取り消すことも可能です。

障害者自立支援法からの移行

障害者自立支援法による給付を受けていた人が65歳になると、介護保険制度へ移行します。スムーズな移行のため、65歳到達前から要介護認定の手続きを進めることがあります。

みなし2号

生活保護受給者は、介護保険の第2号被保険者にはならず、介護が必要な場合は生活保護から介護扶助として給付を受けます。この際、介護保険と同様に要介護認定が行われ、「みなし2号」と呼ばれます。

認定調査

調査員

認定調査は、市区町村の職員や委託された事業者が行います。調査員は身分を証明する調査員証を携帯しています。

調査内容

心身の状況や生活環境など、厚生労働省令で定める項目について調査を行います。家族の介護力は考慮されません。調査項目は、制度改正ごとに見直しが行われています。

特記事項

調査項目で状態を表せない場合は、特記事項として文章で記録されます。

認定調査前の死亡

申請者が認定調査前に死亡した場合、原則として認定は行われず、保険給付は受けられません。

主治医意見書

市区町村は、申請者の主治医に意見書の提出を求めます。意見書には、傷病の状態、心身の状態、生活機能、サービスに関する意見などが記載されます。

一次判定

認定調査と主治医意見書に基づき、コンピュータで要介護認定基準時間を算出します。この基準時間は、介護にかかる時間を評価するもので、直接生活介助、間接生活介助、BPSD関連行為、機能訓練関連行為、医療関連行為などを含みます。厚生労働省は、この算出に用いるソフトウェアを無償で提供しています。

逆転現象

樹形モデルにより、心身の状態が悪化した場合でも基準時間が短くなる（介護の手間が少なくなる）場合があります。これは、状態が悪化しても介護の手間が増加しないケースを反映したものです。

一分間タイムスタディ・データ

基準時間の算出には、介護保険施設での介護時間を1分刻みで調査したデータが用いられていますが、在宅の高齢者や軽度の高齢者には適さないのではないかという議論があります。

介護認定審査会

組織

介護認定審査会は、市区町村の附属機関として設置され、医療、保健、福祉の専門家で構成されています。

合議体

審査は、複数の委員で構成される合議体で行われます。

審査内容

一次判定結果、認定調査結果、主治医意見書を総合的に審査し、要介護度と認定有効期間を判定します。

二次判定

介護認定審査会が、一次判定結果を元に、介護の必要度を最終的に判定します。状況に応じて、一次判定の結果を修正することがあります。

認定有効期間

要介護認定の有効期間は、新規申請で原則6ヶ月、更新申請で原則12ヶ月です。ただし、状態が不安定な場合は短く、安定している場合は長く設定できます。有効期間中でも、介護度を変更する申請が可能です。

結果通知

市区町村は、介護認定審査会の判定結果に基づいて要介護認定を行い、申請者に結果を通知します。

申請拒否処分

非該当の結果や区分変更申請の却下は、申請拒否処分にあたり、市区町村は理由を説明する義務があります。

申請から結果通知までの期間

結果通知は、申請から30日以内に行う必要があります。ただし、特別な理由がある場合は延期できます。

みなし却下

結果通知が30日以上遅れた場合、申請者は申請が却下されたものとみなすことができます。

救済制度

不服申立て

認定結果に不服がある場合は、都道府県に設置された介護保険審査会に審査請求できます。裁決には通常3ヶ月から1年程度を要します。

訴訟

審査請求後でなければ、訴訟を起こすことはできません。

事件

田辺市要介護認定県審査会裁決取消請求事件

田辺市が介護保険審査会の裁決を不服として提訴しましたが、原告適格がないとして却下されました。

秋田市の不適正な事務処理

秋田市で、介護認定審査会を開催せずに要介護度を認定していた事件が発生しました。

認定調査に関する議論や賛否

2009年改正をめぐる検証・検討

2009年の制度改正では、認定調査項目の判断基準変更により介護度が軽度化するとして批判があり、厚生労働省が検証・検討会を設置しました。この結果、認定調査員テキストを修正して、改正前の水準に戻しました。

要介護認定の適正化

厚生労働省は、都道府県間の認定のばらつきをなくすため、認定適正化事業を実施しましたが、これは介護度の軽度化につながるという批判もありました。

担当ケアマネジャーへの認定調査委託の是非

担当ケアマネジャーへの認定調査委託は、情報把握の点で有効な面がある一方、利害関係者であるため、委託をしない市区町村もあります。

末期がんと要介護認定

末期がん患者は状態が変化しやすいため、介護保険の制度設計とのミスマッチがあり、制度改善が求められています。

まとめ

要介護認定は、介護保険サービスを利用するための重要なステップです。制度の複雑さや課題点も多くありますが、利用者の状況に合わせて適切な介護サービスを提供できるように、制度の改善が求められます。

参考文献

- 筒井孝子『図解よくわかる要介護認定』日本看護協会出版会、1999年。
- 住居広士著、一番ヶ瀬康子監修『要介護認定とは何か』一橋出版〈介護福祉ハンドブック〉、2004年。
- 月刊ケアマネジメント編集部編著「特集要介護認定、こう変わる」『月刊ケアマネジメント』2009年2月号、環境新聞社、2009年。
- NPO法人東京都介護福祉士会『新・要介護認定調査ハンドブック改訂版』看護の科学社、2009年。
- 水下明美、小竹雅子『介護認定介護保険サービス、利用するには』岩波書店〈岩波ブックレット〉、2009年。　
- 公益社団法人認知症の人と家族の会編『提言・要介護認定廃止』かもがわ出版、2010年。