覇邪の封印
『覇邪の封印』は、1986年に工画堂スタジオからPC-8801向けに発売されたロールプレイングゲームです。その挑戦的なゲームシステムと独特な世界観により、多くのプレイヤーに記憶されています。
本作はPC-8801版を皮切りに、様々な家庭用パソコンやゲーム機に移植されました。海外でもセガ・マスターシステム向けに『Miracle Warriors: Seal of the Dark Lord』として展開されています。移植版を含め、多くのパッケージに布製のワールドマップとメタルフィギュアが同梱されていたのが特徴です。これは、後述するゲームシステムと深く関わっています。
ゲームの舞台となるのは、剣と魔法、そして人や妖精、魔獣が共存する異世界です。かつて平和が保たれていたこの世界に、異次元への通路である「バァンドゥラの通路」の封印が解かれたことにより、邪悪な魔物が侵入してきます。聖アルカス公国には、伝説の勇者イアソンが異次元への通路を塞ぐ方法を持っていたという古い言い伝えがあり、その伝承を元に、世界の平和を取り戻すため、長老たちによって選ばれた主人公（後の「覇邪の勇者アーガス」）が、「覇邪の封印」を手に入れるための長い旅に出ることになります。
本作の最も特筆すべき点は、他の追随を許さない独自のゲームシステムです。これらのシステムが複雑に絡み合い、本作の非常に高い難易度を生み出しています。
まず、マップ表示。俯瞰視点の2Dマップを採用していますが、ゲーム開始時は自キャラクターの現在地周辺しか視認できません。これは、付属の布製ワールドマップの上にメタルフィギュアを置いて、プレイヤー自身が現実世界で位置を確認しながらプレイすることを前提としていました。そのため、付属マップがない状態でのプレイは極めて困難を伴います。特定の魔術品を入手することで視界は広がりますが、建物や施設も実際に到達しないとマップ上に表示されません。視界をさらに広げたり、隠された場所を表示させるには、特別なアイテムが必要となります。また、川に入ることもできますが、特定の船がないと流されて体力が減り、最悪の場合溺死することもあります。
戦闘システムも独特です。パーティーを組んでいても、戦闘は常に主人公と敵キャラクターの一対一で行われます。仲間との連携や防御といった概念は存在しません。攻撃は敵味方共に必ず命中し、ダメージを受けるのは戦闘に参加したキャラクターのみです。経験値も、敵を倒す際に攻撃したキャラクターだけが得られます。ステータスは棒グラフで表示され、経験値のバーが攻撃力のバーを超えるとレベルアップとなります。遭遇する敵の強さは地形によって異なり、平地以外の場所では序盤は逃走を繰り返す必要に迫られます。戦闘中に逃げることもできますが、逃走中に敵からの追撃を受けるリスクがあり、追撃ダメージで戦闘不能となる可能性も存在します。ただし、一度逃走を選択すれば、追撃に耐えられれば必ず逃げ切れる仕様です。主人公が死亡するとゲームオーバーですが、仲間が倒れた場合はゲーム続行が可能で、装備は全て失われます。死亡した仲間は、特定の場所で費用を支払うことで復活させることができます。
魔術品は他のRPGにおけるアイテムに相当しますが、入手しただけでは使えません。その使用法を知るためには、各地の町にいる長老に料金を支払って情報を聞く必要があります。しかも、一人の長老が知っている魔術品の情報には限りがあるため、様々な場所を訪れる必要があります。入手方法も敵からのドロップや特定の人物からの譲渡など多岐にわたります。
鍛冶屋・まじない師システムも特徴的です。武器や防具には耐久度が設定されており、戦闘で使うたびに消耗し、最終的には失われてしまいます。耐久度は町の鍛冶屋に依頼して修理できますが、高額なゴルダ（ゲーム内通貨）を支払えば鍛冶屋そのものをパーティーに雇うことができます。雇った鍛冶屋は、町に戻る必要なく戦闘後に装備を無償で自動修理してくれます。同様にまじない師も雇用でき、雇うと戦闘後に手持ちの回復アイテムを使ってパーティーメンバーの体力を自動で全回復させてくれます。
知名度システムは、ゲーム世界での主人公の評判を示す要素です。敵対する魔物には、異世界から侵入した「異次元獣」と、その土地固有の「地元獣」がいます。異次元獣を倒すと知名度が上がりますが、地元獣には住民に害をなすものと慕われているものがおり、前者討伐で知名度が上昇、後者討伐で低下します。戦闘からの逃走も知名度を下げます。知名度が低下すると、町の住民からの情報収集や魔術品の入手、さらには買い物さえも困難になります。ゲームの進行上、やむを得ず知名度を低下させる状況も発生します。魔物だけでなく、旅の人間と遭遇することもあり、彼らへの「話しかける」「脅す」といった行動でも知名度は変動します。特定の魔術品を使えば、一部の地元獣と会話することも可能になります。
牙システムは、冒険序盤、知名度が低いうちは魔物を倒しても経験値しか得られませんが、戦士としての知名度が上がると、国王から魔獣の牙を収集・換金するライセンスが与えられます。集めた牙はゴルダに換金でき、大量に集めることで特別な武器を入手できることもあります。また、人間キャラクターを倒すことでもゴルダは得られますが、入手額には上限があります。
主要な登場人物としては、プレイヤーが名前を決める主人公、市場の商人ガイ、酒場の踊り子メディア、閉じ込められていた戦士トレモス、主人公の相棒となる毒舌な妖精、そして情報を提供する語り部の老婆コサーマなどがパーティーメンバーや協力者として登場します。
オリジナル版であるPC版にはプレイ中のBGMがありませんでしたが、セガ・マークIII版やファミリーコンピュータ版への移植にあたっては、それぞれ独自にBGMが追加されました。セガ・マークIII版はFM音源に対応しています。
移植版の中では、セガ・マークIII版とファミリーコンピュータ版で特に仕様変更が見られます。セガ・マークIII版はセガが開発・販売し、戦闘画面の視点やエンカウント方式などが変更されています。セーブはバッテリーバックアップで複数箇所に可能でした。ファミリーコンピュータ版はアスキーから発売され、初期の視界がPC版より広くなっているほか、特定のアイテムの効果や、海の迷宮といった新たな要素が追加されています。セーブには外部記憶装置が必要で、無い場合は非常に長いパスワードを控える必要がありました。
本作の原案・ディレクターを務めた阿賀信宏氏は、後に『シュヴァルツシルト』シリーズなどを手掛けています。また、メガドライブの周辺機器であるメガCD向けに、続編となる『新・覇邪の封印』が開発中であると告知されましたが、最終的には発売中止となっています。
ファミリーコンピュータ版は当時のゲーム雑誌でも評価され、パスワードの長さが指摘される一方、従来のRPGとは異なるシステムやストーリーが高く評価されました。独自のシステム群が織りなすゲームプレイは、多くのプレイヤーにとって新鮮であると同時に、その難しさが印象に残る作品と言えるでしょう。武器や防具の耐久度、鍛冶屋の雇用といった要素は、『ヘラクレスの栄光』シリーズにも見られる共通点です。また、通貨単位「ゴルダ」は『リトル・ウィッチ パルフェ』シリーズでも使用されています。続編としては、PC向けに『アルギースの翼』が発売されています。ラスボスのミノリンは、本作のテラリンの妹という設定です。
『覇邪の封印』は、プレイヤーに手探りでの探索と戦略的な判断を強く要求する、挑戦的でありながらも個性豊かなRPGとして、今なお根強いファンを持つ作品です。
本作はPC-8801版を皮切りに、様々な家庭用パソコンやゲーム機に移植されました。海外でもセガ・マスターシステム向けに『Miracle Warriors: Seal of the Dark Lord』として展開されています。移植版を含め、多くのパッケージに布製のワールドマップとメタルフィギュアが同梱されていたのが特徴です。これは、後述するゲームシステムと深く関わっています。
ゲームの舞台となるのは、剣と魔法、そして人や妖精、魔獣が共存する異世界です。かつて平和が保たれていたこの世界に、異次元への通路である「バァンドゥラの通路」の封印が解かれたことにより、邪悪な魔物が侵入してきます。聖アルカス公国には、伝説の勇者イアソンが異次元への通路を塞ぐ方法を持っていたという古い言い伝えがあり、その伝承を元に、世界の平和を取り戻すため、長老たちによって選ばれた主人公（後の「覇邪の勇者アーガス」）が、「覇邪の封印」を手に入れるための長い旅に出ることになります。
本作の最も特筆すべき点は、他の追随を許さない独自のゲームシステムです。これらのシステムが複雑に絡み合い、本作の非常に高い難易度を生み出しています。
まず、マップ表示。俯瞰視点の2Dマップを採用していますが、ゲーム開始時は自キャラクターの現在地周辺しか視認できません。これは、付属の布製ワールドマップの上にメタルフィギュアを置いて、プレイヤー自身が現実世界で位置を確認しながらプレイすることを前提としていました。そのため、付属マップがない状態でのプレイは極めて困難を伴います。特定の魔術品を入手することで視界は広がりますが、建物や施設も実際に到達しないとマップ上に表示されません。視界をさらに広げたり、隠された場所を表示させるには、特別なアイテムが必要となります。また、川に入ることもできますが、特定の船がないと流されて体力が減り、最悪の場合溺死することもあります。
戦闘システムも独特です。パーティーを組んでいても、戦闘は常に主人公と敵キャラクターの一対一で行われます。仲間との連携や防御といった概念は存在しません。攻撃は敵味方共に必ず命中し、ダメージを受けるのは戦闘に参加したキャラクターのみです。経験値も、敵を倒す際に攻撃したキャラクターだけが得られます。ステータスは棒グラフで表示され、経験値のバーが攻撃力のバーを超えるとレベルアップとなります。遭遇する敵の強さは地形によって異なり、平地以外の場所では序盤は逃走を繰り返す必要に迫られます。戦闘中に逃げることもできますが、逃走中に敵からの追撃を受けるリスクがあり、追撃ダメージで戦闘不能となる可能性も存在します。ただし、一度逃走を選択すれば、追撃に耐えられれば必ず逃げ切れる仕様です。主人公が死亡するとゲームオーバーですが、仲間が倒れた場合はゲーム続行が可能で、装備は全て失われます。死亡した仲間は、特定の場所で費用を支払うことで復活させることができます。
魔術品は他のRPGにおけるアイテムに相当しますが、入手しただけでは使えません。その使用法を知るためには、各地の町にいる長老に料金を支払って情報を聞く必要があります。しかも、一人の長老が知っている魔術品の情報には限りがあるため、様々な場所を訪れる必要があります。入手方法も敵からのドロップや特定の人物からの譲渡など多岐にわたります。
鍛冶屋・まじない師システムも特徴的です。武器や防具には耐久度が設定されており、戦闘で使うたびに消耗し、最終的には失われてしまいます。耐久度は町の鍛冶屋に依頼して修理できますが、高額なゴルダ（ゲーム内通貨）を支払えば鍛冶屋そのものをパーティーに雇うことができます。雇った鍛冶屋は、町に戻る必要なく戦闘後に装備を無償で自動修理してくれます。同様にまじない師も雇用でき、雇うと戦闘後に手持ちの回復アイテムを使ってパーティーメンバーの体力を自動で全回復させてくれます。
知名度システムは、ゲーム世界での主人公の評判を示す要素です。敵対する魔物には、異世界から侵入した「異次元獣」と、その土地固有の「地元獣」がいます。異次元獣を倒すと知名度が上がりますが、地元獣には住民に害をなすものと慕われているものがおり、前者討伐で知名度が上昇、後者討伐で低下します。戦闘からの逃走も知名度を下げます。知名度が低下すると、町の住民からの情報収集や魔術品の入手、さらには買い物さえも困難になります。ゲームの進行上、やむを得ず知名度を低下させる状況も発生します。魔物だけでなく、旅の人間と遭遇することもあり、彼らへの「話しかける」「脅す」といった行動でも知名度は変動します。特定の魔術品を使えば、一部の地元獣と会話することも可能になります。
牙システムは、冒険序盤、知名度が低いうちは魔物を倒しても経験値しか得られませんが、戦士としての知名度が上がると、国王から魔獣の牙を収集・換金するライセンスが与えられます。集めた牙はゴルダに換金でき、大量に集めることで特別な武器を入手できることもあります。また、人間キャラクターを倒すことでもゴルダは得られますが、入手額には上限があります。
主要な登場人物としては、プレイヤーが名前を決める主人公、市場の商人ガイ、酒場の踊り子メディア、閉じ込められていた戦士トレモス、主人公の相棒となる毒舌な妖精、そして情報を提供する語り部の老婆コサーマなどがパーティーメンバーや協力者として登場します。
オリジナル版であるPC版にはプレイ中のBGMがありませんでしたが、セガ・マークIII版やファミリーコンピュータ版への移植にあたっては、それぞれ独自にBGMが追加されました。セガ・マークIII版はFM音源に対応しています。
移植版の中では、セガ・マークIII版とファミリーコンピュータ版で特に仕様変更が見られます。セガ・マークIII版はセガが開発・販売し、戦闘画面の視点やエンカウント方式などが変更されています。セーブはバッテリーバックアップで複数箇所に可能でした。ファミリーコンピュータ版はアスキーから発売され、初期の視界がPC版より広くなっているほか、特定のアイテムの効果や、海の迷宮といった新たな要素が追加されています。セーブには外部記憶装置が必要で、無い場合は非常に長いパスワードを控える必要がありました。
本作の原案・ディレクターを務めた阿賀信宏氏は、後に『シュヴァルツシルト』シリーズなどを手掛けています。また、メガドライブの周辺機器であるメガCD向けに、続編となる『新・覇邪の封印』が開発中であると告知されましたが、最終的には発売中止となっています。
ファミリーコンピュータ版は当時のゲーム雑誌でも評価され、パスワードの長さが指摘される一方、従来のRPGとは異なるシステムやストーリーが高く評価されました。独自のシステム群が織りなすゲームプレイは、多くのプレイヤーにとって新鮮であると同時に、その難しさが印象に残る作品と言えるでしょう。武器や防具の耐久度、鍛冶屋の雇用といった要素は、『ヘラクレスの栄光』シリーズにも見られる共通点です。また、通貨単位「ゴルダ」は『リトル・ウィッチ パルフェ』シリーズでも使用されています。続編としては、PC向けに『アルギースの翼』が発売されています。ラスボスのミノリンは、本作のテラリンの妹という設定です。
『覇邪の封印』は、プレイヤーに手探りでの探索と戦略的な判断を強く要求する、挑戦的でありながらも個性豊かなRPGとして、今なお根強いファンを持つ作品です。
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