見立絵

見立絵とは

見立絵（みたてえ）とは、歴史上の出来事や故事、古典などを、同時代の人々が理解しやすい題材に託して描いた絵のことです。つまり、何か別のものに例えて表現する絵画であり、一種のパロディや風刺、あるいは趣向を凝らした表現として用いられました。

特に江戸時代には、浮世絵などの分野で趣向を凝らした見立絵が多く見られ、武士から庶民まで、さまざまな階層の人々に親しまれました。当時の社会情勢や流行、人々の関心事を反映したものが多く、絵の中に隠されたメッセージやユーモアを読み解く楽しみがありました。

見立涅槃図

江戸時代に描かれた「変わり涅槃図」の中には、「見立涅槃図」に分類される作品群があります。これは、釈迦の入滅（涅槃）を、通常とは異なる題材を用いて表現したものです。中でも有名なのが、伊藤若冲晩年の作『果蔬涅槃図』です。

果蔬涅槃図（かそねはんず）

『果蔬涅槃図』は、二股に分かれた大根を横たえた姿を釈迦の入滅に見立てた作品です。周囲には、野菜や果物が集まり、釈迦の死を悼んでいるかのように描かれています。八百屋に生まれた若冲ならではの着想であり、野菜への愛情と、死に対するユーモラスな視点が感じられます。

このような見立涅槃図は、追悼を笑いの対象とするような側面も持ち合わせており、当時の人々の機知や揶揄の精神が反映されたものと考えられています。

その他の見立涅槃図

英一蝶作「業平涅槃図」: 在原業平の死を涅槃に見立てた作品。
鈴木芙蓉作「芭蕉涅槃図」: 松尾芭蕉の死を涅槃に見立てた作品。
「役者涅槃図」: 人気役者の死を描いた死絵の一種で、役者の死を釈迦の入滅に見立てたもの。
「鯨涅槃図」: 海に打ち上げられた鯨を釈迦の入滅に見立てたもの。

代表的な作品

『雨夜の宮詣で』（あまよのみやもうで）　鈴木春信

歌人・紀貫之を主人公とする謡曲「蟻通」を踏まえ、雨の夜に神社に参拝する男女を描いた作品です。女性を神的な恋の化身として表現しており、ロマンチックな雰囲気が漂っています。古典的な題材を、当時の風俗や美意識に合わせて表現した好例と言えるでしょう。

まとめ

見立絵は、歴史や古典を身近な題材に置き換えることで、人々に親しみやすさとユーモアを与えた絵画です。江戸時代を中心に発展し、様々な趣向を凝らした作品が生み出されました。見立絵を通して、当時の社会や文化、人々の価値観を知ることができます。


参考資料
* 見立絵 - [コトバンク]]:[https://kotobank.jp/word/%E8%A6%8B%E7%AB%8B%E7%B5%B5-160145

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