観光立国推進基本法

概要

観光立国推進基本法（平成18年法律第117号）は、日本が観光立国としての地位を確立するための施策を、体系的かつ計画的に進めることを目的として制定された法律です。これは、それまで日本の観光政策の基盤となっていた観光基本法（昭和38年法律第107号）を約40年ぶりに全面的に見直す形で改正され、2007年 1月1日から施行されました。

制定の背景と意義（前文より）

この法律の前文は、観光が単なるレジャーではなく、国際的な平和や国民の豊かな生活にとって重要な意味を持つことを示唆しています。具体的には、観光は国際社会の相互理解を深め、また、地域経済の活性化や雇用の創出など、国の経済全体に貢献すると同時に、人々の健康増進や生活環境の質向上にも寄与し、国民生活を豊かにする役割も担っていると位置づけています。

特に、日本がこれから直面する少子高齢化や、本格的な国際交流の進展といった社会の変化を踏まえ、観光は地域社会の創意工夫を尊重し、住民が誇りを持てるような活力ある地域づくりや、日本の豊かな文化や歴史への理解促進に不可欠な要素であると強調しています。そして、これらの要素は、豊かな国民生活の実現や国際社会における日本の地位向上に極めて重要であると述べています。

しかし、現状では、観光が持つこれらの重要な役割を十分に果たすための環境整備が遅れていること、また、観光客のニーズの多様化（高付加価値化、少人数旅行の増加など）や国際競争の激化といった近年の大きな変化に対し、十分に対応できていない現状を指摘しています。さらに、日本を訪れる外国人観光客の数も、国際社会における日本の立場に見合う水準には達していないと認識しています。

こうした課題に対処し、国際競争力の高い魅力的な観光地を形成し、観光関連産業の力を高め、必要な人材を育て、そして国際観光を振興することによって「観光立国」を実現することが、21世紀における日本の経済社会発展のために極めて重要であるとの強い認識に基づき、この法律は制定されました。

目的

この法律の主な目的は、観光立国の実現が21世紀の日本にとって非常に重要であるとの観点から、観光立国に関する施策の基本的な考え方（基本理念）を定め、国や地方公共団体をはじめとする関係者の役割や責任を明確にすることにあります。これにより、観光立国実現のための施策を計画的かつ体系的に推進し、最終的には日本の経済の発展、国民生活の質の向上、そして国際社会における相互理解の促進に貢献することを目指しています。

基本理念

観光立国推進基本法に基づく施策は、以下の四つの基本的な考え方に基づいて進められるべきであると定めています。

1. 地域主体性の尊重と持続可能な発展を通じた観光促進: 各地域の創意工夫を尊重し、地域住民が誇りと愛着を持てる、活力あふれる地域社会の持続可能な発展を通じて、国内外からの観光客誘致を促進すること。これは、将来にわたる国民生活の豊かさを実現するために特に重要であるという認識の下で行われます。
2. 国民の観光旅行促進: 観光が健康でゆとりのある生活を実現する上で果たす重要な役割を踏まえ、日本国民自身の観光旅行を積極的に促進することが図られます。
3. 国際的視点の導入: 観光が国際相互理解を深め、ひいては国際平和に貢献するという役割を重視し、施策は常に国際的な視野に立って講じられます。
4. 関係者の連携: 観光産業が多様な事業分野から成り立ち、多くの雇用機会を生み出すなど、日本及び地域の経済社会にとって重要な役割を担っていることを踏まえ、国、地方公共団体、住民、事業者などが互いに連携・協力して施策を進めることが重視されます。

観光立国推進基本計画

政府は、これらの目的や基本理念に基づき、観光立国の実現に向けた施策を総合的かつ計画的に進めるため、「観光立国推進基本計画」を策定する義務があります。この計画は、国土交通大臣が交通政策審議会の意見を聞いた上で、閣議決定によって定められます。

基本的施策

法律は、観光立国実現のために重点的に取り組むべき基本的施策として、以下の項目を挙げています。

国際競争力の高い魅力ある観光地の形成: 地域の特性を生かした観光資源の活用や、観光客の来訪を容易にするための交通インフラの総合的な整備を含みます。
観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成: 観光関連産業のビジネス基盤を強化し、質の高いサービス提供や新たな観光コンテンツ開発を担う人材を育成します。
国際観光の振興: 日本への外国人観光客の誘致を促進するとともに、国際的な相互交流を活発化させます。
観光旅行の促進のための環境の整備: 観光旅行をより簡単かつ円滑にし、観光客への対応（接遇）の質を向上させ、利便性を高め、そして何よりも安全を確保します。また、温泉やエコツーリズムといった新たな観光分野の開拓も含まれます。
観光地における環境及び良好な景観の保全: 豊かな自然環境や美しい景観を守り、持続可能な観光を推進します。
観光に関する統計の整備: 観光の現状や効果を正確に把握し、効果的な施策立案に資するための統計データを整備・活用します。

これらの施策を推進することにより、観光立国推進基本法は、日本を国際社会において存在感のある観光大国へと発展させ、国民生活の質の向上と経済活性化、そして国際相互理解の深化に貢献することを目指しています。

所管は国土交通省（観光庁）が行っています。

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