角塚古墳

角塚古墳：最北端に残る歴史の証

岩手県奥州市胆沢南都田に位置する角塚古墳は、その名の通り前方後円墳という形状をしており、国の史跡に指定されています。通称として「塚の山」や「一本杉」とも呼ばれ、岩手県唯一、そして日本最北端にある前方後円墳として、考古学上非常に重要な存在です。北上川中流域の標高約76メートルの低位段丘上に築造されており、西から合流する胆沢川の形成した扇状地にあります。

古墳の構造と特徴

墳丘の長さは43～45メートル。後円部は直径約28メートル、高さ約4メートルで2段築成されています。一方、前方部は南向きで、北側幅約10メートル、南側幅約15メートル、高さ約1.5メートルと、後円部に比べて低く短くなっています。現在、墳丘は大きく損壊しており、原型をとどめた部分は少ないものの、後円部には大きな一本杉が後世に植えられています。周濠は後円部周辺で幅約10メートル、前方部で約3メートルと狭くなり、全体として馬蹄形をしています。埋葬施設については墳頂部の平面下に設けられたと推測されていますが、詳細は明らかになっていません。

出土品と築造時期

発掘調査では、葺石や多くの埴輪破片が出土しています。前方部からは人物、動物、器財などを模した形象埴輪が、後円部周辺の周濠からは円筒埴輪が発見されています。これらの埴輪の特徴から、古墳の築造時期は5世紀末から6世紀初頭と推定されています。出土品は胆沢郷土資料館（胆沢文化創造センター内）で展示公開されています。

地域との関連と交流

角塚古墳の北西2キロメートルには、ほぼ同時期の大集落跡である前半入遺跡が存在します。この遺跡からの出土品は、宮城県域や久慈地域など広範囲にわたる交流を示しており、角塚古墳との関連も指摘されています。角塚古墳の造営は計画性があり、本格的な築造であることがうかがえます。岩手県内では角塚古墳を除く前方後円墳はすべて後期古墳であり、その南側では宮城県北部の大崎地方（約70キロメートル南）まで前方後円墳の存在が確認されていないことから、角塚古墳の特異性は際立っています。

伝説と保護

角塚古墳に関する地元の伝説では、かつて当地に強欲な妻を持つ長者がおり、その妻が大蛇に変身して農民を苦しめたと伝えられています。里人は生け贄を差し出すことで大蛇を元の姿に戻し、その角を埋めた場所が角塚古墳であると言われています。この伝説から、古墳を傷つけると祟りがあると信じられ、それが墳丘の維持に繋がったと考えられています。

文化財としての指定

角塚古墳は1985年に国の史跡に指定され、1990年には出土した埴輪が岩手県指定文化財（有形文化財）に指定されています。昭和10年代から地元研究者によって埴輪の出土が注目され、昭和20年代には広く紹介されました。1947年には前方後円墳と確認され、その後、測量や範囲確認調査なども行われ、その歴史的価値が再認識されてきました。

まとめ

角塚古墳は、その地理的な位置、独自の構造、出土遺物、そして地元に伝わる伝説など、多くの魅力を兼ね備えた貴重な歴史遺産です。最北端の前方後円墳という特異性を持ち、東北地方の歴史や文化を考える上で重要な役割を果たしていると言えるでしょう。今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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