形象埴輪

形象埴輪とは

形象埴輪は、古墳時代に古墳の墳丘上や周囲に立て並べられた焼き物の一種です。円筒埴輪とは異なり、家、器物、人物、動物など、具体的な形を模して作られているのが特徴です。これらの形象埴輪は、当時の人々の生活や信仰、社会構造を理解する上で非常に重要な資料となっています。

形象埴輪の種類

形象埴輪は、大きく分けて以下の4種類に分類されます。

1. 家形埴輪:
古墳の頂上の中央部に配置されることが多く、首長の居館や神殿、祭殿などを模したと考えられています。
単独で置かれることは少なく、円筒埴輪や器財埴輪と組み合わせて配置されるのが一般的です。

2. 器財埴輪:
家形埴輪の周囲に配置され、首長を守護する役割があったと考えられています。
種類は多岐にわたり、蓋（きぬがさ）や翳（さしば）などの威儀具、高坏や壺などの容器、大刀や弓などの武器・武具などがあります。
これらは、当時の葬送儀礼を再現する上で欠かせない資料です。
壺形埴輪は、弥生時代の特殊器台・特殊壺が埴輪化したもので、他の形象埴輪とは起源が異なり、円筒埴輪に分類されることもあります。

3. 人物埴輪:
古墳の造出や外堤に配置され、様々な人物の姿を模しています。
巫女、楽器を弾く人、武人、盾持ち人、鷹飼い、鵜飼い、馬飼い、力士などが表現されており、特に巫女と考えられる捧げ物を持つ女性が多く見られます。
これらの人物埴輪から、当時の衣装や風俗、身分や職掌を知ることができます。
人物埴輪の配置は、首長の葬儀や首長権継承の儀礼を表しているという説があります。

4. 動物埴輪:
馬の埴輪が最も多く、被葬者の権威を表すと考えられています。
馬の他には、犬、鵜、鷹、猪、鹿、水鳥、鶏、牛などの動物が確認されており、当時の人間と動物との関係を知る手がかりとなります。
これらの埴輪は、古墳祭祀を研究する上で重要な資料です。

研究の歴史

形象埴輪の研究は古くから行われており、多くの研究者がその意義や解釈を深めてきました。

後藤守一（1931年）:
人物埴輪の職掌的性格を分析し、埴輪群像が葬儀や葬列を表す可能性を初めて指摘しました。

滝口宏ら（1956年）:
芝山古墳群の発掘調査で、形象埴輪が整然と並んだ状態で発見され、埴輪の配列の意味を解明する上で大きな発見となりました。
この発見により、後藤と同様に葬列説が支持されました。

小林行雄（1958年）:
形象埴輪の編年研究を行い、種類によって出現時期に差があることを明らかにしました。

水野正好（1971年）:
保渡田八幡塚古墳の埴輪配列を検討し、「埴輪芸能論」を提唱しました。埴輪群像が「王権継承儀礼」を表すとする説を唱え、埴輪祭祀の解釈を深めました。

高橋克壽（1988年）:
器財埴輪の編年を提示し、形象埴輪の研究を活性化させました。

塚田良道（1996年）:
人物埴輪の分類・名称設定を再検討し、従来の分類に疑問を投げかけました。
例えば、「踊る埴輪」と呼ばれていたものが「馬飼」である可能性を指摘しました。

宝塚1号墳の発掘調査（1998-2000年）:
埴輪の配置が明らかになり、水と葬送儀礼との深い関係が示唆されました。

若狭徹（2000年）:
保渡田八幡塚古墳の再発掘調査に基づいて、埴輪群像が首長の権力の表象装置であるとする新たな解釈を提示しました。

形象埴輪の変遷

形象埴輪は、時代とともにその形態や配置が変化しています。その変遷は、大きく4つの段階に分けられます。

1. 第1段階（4世紀前半頃）:
家、蓋、盾、靫（ゆぎ）、鶏などを模した埴輪が、古墳の後円部頂上の中央部に配置されました。

2. 第2段階（4世紀後半頃）:
前方後円墳や大型円（方）墳に造出が設けられるようになり、そこに形象埴輪が配置されるようになりました。

3. 第3段階（5世紀後半頃～6世紀中頃）:
二重周濠の中堤に、多様な形象埴輪群が配置されるようになり、人物埴輪や馬形埴輪が登場しました。

4. 第4段階（6世紀後半～6世紀末頃）:
* 墳丘のテラスに形象埴輪が並べられるようになり、囲形埴輪や舟形埴輪などの埴輪が姿を消しました。

まとめ

形象埴輪は、古墳時代の人々の精神世界や社会構造を映し出す貴重な文化遺産です。その多様な形態や配置、歴史的な変遷を研究することで、当時の社会や文化に対する理解を深めることができます。今後も新たな発見や研究によって、形象埴輪の謎がさらに解き明かされることが期待されます。

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