角屋本源氏物語

角屋本源氏物語：鎌倉時代の貴重な源氏物語写本

「角屋本源氏物語」は、源氏物語の写本の中でも特に貴重な存在として知られています。その名の通り、京都市下京区の島原花街にあった揚屋「角屋」で発見されたことから、この名が付けられました。2008年3月10日のマスコミ発表以降、角屋保存会が所蔵し、「角屋もてなしの文化美術館」で大切に管理・展示されています。

この写本は、鎌倉時代に書写されたと推定されており、現存するのは「末摘花」一帖のみの零本です。本文には若干の脱落や、ページの順番が入れ違っている（錯簡）箇所も見られます。しかし、その価値は損なわれるものではありません。

これまで知られていた源氏物語の写本、例えば青表紙本や河内本とは異なる系統に属する点において、角屋本は極めて重要な発見と言えます。特に、鎌倉時代の書写で「末摘花」巻の別系統の写本は、陽明文庫本と御物本しか確認されていませんでした。角屋本は、それらに加わる三例目の貴重な資料となるのです。

注目すべきは、その本文系統です。角屋本は、別本として代表的な陽明文庫本と多くの類似点が見られます。しかし、詳細な比較研究の結果、両者には直接的な写本関係はないと結論付けられています。つまり、一方を写してもう一方を作ったという直接的な関係性はないものの、類似した系統に属する写本であることが示唆されています。これは、鎌倉時代の源氏物語写本の伝播や系統を知る上で、非常に重要な手がかりとなります。

角屋本の発見と研究は、加藤洋介氏らの貢献が大きいです。加藤氏は、『角屋研究』誌に複数の論文を発表し、角屋本の解題、影印、そして翻刻を手がけました。これらの研究成果は、角屋本をより深く理解し、その価値を再認識する上で不可欠なものとなっています。

角屋本源氏物語は、単なる古文書ではなく、鎌倉時代の文化や歴史、そして源氏物語の伝播を解明する上で極めて重要な史料です。その存在は、私たちに過去の知恵と美意識を伝え、未来へと繋げていく役割を担っています。今後も、継続的な研究と保存によって、その価値がより一層明らかにされていくことが期待されます。

参考文献

加藤洋介「調査研究速報　角屋保存会蔵『源氏物語』写本末摘花巻について」『角屋研究』第17号、2008年（平成20年）3月31日、pp. 1-9。
加藤洋介「角屋保存会蔵　源氏物語末摘花巻　―解題と影印・翻刻―」『角屋研究』第18号、2009年（平成21年）2月25日、pp. 15-60。

関連情報

鷺水亭 より. ─折々のよもやま話─（旧 賀茂街道から2） 角屋本『源氏物語』と陽明文庫本
鷺水亭 より. ─折々のよもやま話─（旧 賀茂街道から2） 角屋本『源氏物語』の疑問氷解・追記版

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