クルスス・ホノルム

クルスス・ホノルム：古代ローマの出世街道

クルスス・ホノルム（Cursus honorum）は、共和政ローマおよび初期帝政ローマにおいて、政治的野心を持つ者が執政官（コンスル）に到達するための、定められた官職のコースを指します。日本語では「名誉のコース」「名誉のキャリア」と訳され、主にノビレス（貴族）階級出身者が対象でした。

概要

クルスス・ホノルムの対象となる政務官には、執政官の他に、法務官（プラエトル）、財務官（クァエストル）、上級按察官（アエディリス・クルリス）が含まれます。平民（プレブス）出身者の場合は平民按察官（アエディリス・プレベイウス）が該当し、これらに加えて護民官も含まれます。

各政務官には、被選挙権を得るための最低年齢が定められており、同一の公職に連続して就任することは法律で禁止されていました。また、再任までの間隔も定められていました。しかし、共和政ローマ末期の内乱期には、これらの規則が形骸化し、ガイウス・マリウスのように、紀元前104年から紀元前100年まで5年連続で執政官を務める例も見られました。

古代ローマでは、全ての政務官は無報酬であったため、クルスス・ホノルムを目指すには、相応の資産背景と家柄が必要でした。しかし、ノウス・ホモ（新参者）から執政官にまで登りつめた人物もおり、ガイウス・マリウスやマルクス・トゥッリウス・キケロなどがその例として知られています。

クルスス・ホノルムの形成

紀元前367年のリキニウス・セクスティウス法以降、政務官経験者が元老院入りするという流れが確立したと考えられています。カンナエの戦い後の元老院議員補充では、まずパトリキ（貴族）の政務官経験者から補充され、不足分をプレブスから登用しました。紀元前150年までにはクァエストルが登竜門とみなされ、プレブスでクァエストル以上の経験者も議員資格を得たとされています。

紀元前180年には、護民官ルキウス・ウィッリウスが政務官立候補者の年齢制限を初めて提起し、この頃には政務官の序列が確定していたと考えられています。しかし、それ以前には明確な制限や序列は存在しませんでした。紀元前3世紀中頃から執政官経験者が法務官に就任する例がなくなることから、紀元前2世紀までにはこの階梯が形成されたと推測され、プレブスに関しても同じ頃に護民官、平民按察官、法務官の序列が確立したと考えられます。

ウィッリウス法（Lex Villia）では、政務官の最低年齢を執政官43歳、法務官40歳、上級按察官37歳と定め、各政務官の任期終了後、次の政務官選出まで2年の間隔が設けられました。スッラが定めたコルネリウス法（Lex Cornelia de magistratibus）では、クァエストルから法務官、そして執政官へと進む序列が決定されました。

クルスス・ホノルムの例

クルスス・ホノルムの一例を以下に示します。

ガイウス・テレンティウス・ウァロ
クァエストル（紀元前222年）
アエディリス（紀元前221年、紀元前220年）
プラエトル（紀元前218年）
コンスル（紀元前216年）
マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス（大カト）
クァエストル（紀元前204年）
アエディリス（紀元前199年）
プラエトル（紀元前198年）
コンスル（紀元前195年）
ガイウス・ユリウス・カエサル
クァエストル（紀元前69年）
アエディリス（紀元前65年）
プラエトル（紀元前63年）
コンスル（紀元前59年）

まとめ

クルスス・ホノルムは、古代ローマにおいて、政治家がキャリアを積み、権力の中枢に到達するための重要なシステムでした。この制度は、単なる出世競争の場ではなく、ローマ社会の安定と発展に寄与するものでもありました。

参考文献

Adolf Berger (1953). Encyclopedic Dictionary of Roman Law. American Philosophical Society
安井萌『史学雑誌,第105編 第6号、共和政ローマの「ノビリタス支配」－その実態理解のための一試論－』山川出版社、1996年。

関連項目

古代ローマの公職

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