言問団子

言問団子（ことといだんご）

隅田川畔、桜橋の向島側のたもとに店を構える和菓子店の名であり、また、そこで代々受け継がれてきた看板商品である団子の名でもあります。

歴史と名の由来

言問団子の創業は、植木職人であった外山佐吉氏によって、江戸時代末期の嘉永年間（1848年〜1855年）とされています。店名の「言問（こととい）」は、平安時代の代表的な歌人、在原業平が詠んだ有名な和歌「名にし負はばいざ言問はん都鳥我が思ふ人はありやなしやと」（『古今和歌集』巻九・東歌）に由来しています。

この歌は、都を離れた業平が隅田川のほとりで都鳥（現在のユリカメとされる）に都への思いを託して問いかけた情景を詠んだもので、その舞台が現在の言問団子の店があるあたりと目されていることから、店の名として採用されました。店の名が著名になるにつれて、この一帯が「言問」と呼ばれる別称を持つようになり、現在では店の近くを流れる隅田川に架かる橋も「言問橋」と名付けられています。

店舗と人々の交流

江戸時代から続く老舗である言問団子は、多くの人々に愛されてきました。現在、この店はTBSアナウンサーの外山惠理氏のご実家としても知られています。

文学作品にもその名が登場します。たとえば、池波正太郎氏の時代小説『鬼平犯科帳』では、しばしば主人公たちが立ち寄る場所として描かれ、当時の江戸情緒を伝えています。

また、幸田露伴をはじめとする多くの文人墨客がこの店を訪れました。露伴に関しては、店との間で交わされた直筆の手紙が今も大切に保管されていると伝えられています。童謡「赤い靴」などで知られる野口雨情は、言問団子の店舗内で詩を詠んだとされ、その詩は店の前に置かれた石碑に刻まれています。さらに、隅田公園には、団子を食べながら詠んだとされる雨情の歌碑も建てられています。大正ロマンを代表する画家、竹久夢二も言問団子を大変気に入り、彼の日記や版画の中にこの団子が描かれていることからも、当時の人々にいかに愛されていたかが伺えます。

現代においては、定期観光バス「はとバス」のコースの一部に、言問団子での喫茶休憩が組み込まれることがあり、多くの観光客にも親しまれています。お笑いコンビ「さまぁ〜ず」が所属するユニット「NO PLAN」の楽曲「嫁に来ないか墨田区へ」の歌詞にも、「言問団子でお茶を飲みたいね」という一節が登場し、現代の文化においてもその存在感が示されています。

商品

言問団子の主な商品は、店名と同じ「言問団子」と「言問最中」の二種類のみです。シンプルながら、こだわり抜かれた伝統の味が特徴です。

看板商品の団子は、三種類の餡（あん）でそれぞれの味を楽しむことができます。定番の小豆餡と白餡に加え、独特の風味を持つ味噌餡があるのが特徴です。それぞれの餡が団子の素朴な味わいを引き立てています。

団子の形態には歴史的な背景があります。江戸時代、四文銭が広く流通する以前は、串に五つの団子が刺さり、五文で売られるのが一般的でした。しかし、四文銭の普及とともに、四の倍数での支払いが主流となり、団子も串に四つ刺さって四文で売られる形が定着しました。現在でも多くの団子店でこの四つ刺しの形態が見られます。

一方、言問団子の団子は串には刺されていません。土産用として販売される際は、それぞれの餡ごとに分けられ、箱に詰められています。店内で召し上がる場合は、三種類の団子が一つずつ皿に盛られ、緑茶が添えられた「三色セット」が標準メニューとなっています。この店では、席に着くと特に注文しなくても、この団子セットが運ばれてくるというユニークなスタイルをとっています（ただし、言問最中を注文した場合を除く）。団子の数がかつての四つから現在の三つになったのは、店の創業年が日本の貨幣制度が両から円へと移行した時期と重なることに関係があるとも言われています。

言問最中は、香ばしい皮の中に上品な餡が詰まった一品です。こちらも団子と同様、土産用として購入できるほか、店内で団子と一緒に、あるいは単独でいただくこともできます。

言問団子は、その名の由来となった歌枕の地で、江戸時代から変わらぬ製法と味を守り続ける老舗として、多くの人々に愛され続けています。隅田川沿いの散策や、かつてこの地を訪れた文人たちの足跡をたどりながら、歴史と文化を感じさせるこの団子を味わってみるのも良いでしょう。

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