診療ガイドライン

診療ガイドライン：適切な医療のための指針

診療ガイドラインとは、医療現場での正確な診断と治療を支援するために作成された指針です。病気の予防、診断、治療、予後予測など、診療に関する最新の情報を専門家が分かりやすくまとめ、医療従事者が適切な医療を提供する上で役立ちます。ガイドライン、ガイド、指針など、様々な呼び名で呼ばれています。

ガイドラインの役割と利用方法

根拠に基づく医療（EBM）の普及に伴い、医療現場では常に最新の医学研究成果を踏まえた診断と治療が求められます。しかし、医療従事者が全ての疾患について最新の知見を常に保持することは困難です。そこで、診療ガイドラインは、医療従事者間、あるいは医療従事者と患者間の意思疎通を円滑にし、共通認識に基づいた診療方針の決定を支援します。

診療ガイドラインは、定期的な更新によって常に最新の医学的エビデンスを反映しており、EBMを効率化し、医療の透明性を高める役割も担っています。ただし、ガイドラインは強制力を持つものではなく、患者の状態や治療環境などを考慮し、必要に応じてガイドラインからの逸脱も許容されます。

ガイドラインの変遷とエビデンスの分類

古くから専門家の意見に基づいた手引書は存在しましたが、1990年代以降、EBMの普及により、最新の臨床研究に基づいたガイドラインが国内外で増加しました。これらのガイドラインは、ウェブサイトなどで検索・参照できるようになり、利便性が向上しています。一方で、類似分野のガイドラインが多数存在することへの批判もあります。

現代のガイドラインでは、エビデンスの有効性と、根拠となる研究デザインに基づいた分類が用いられることが一般的です。

有効性による分類（グレード）

A：強く勧められる
B：勧められる
C：勧められるだけの根拠が明確でない
D：行わないよう勧められる

研究デザインによる分類（エビデンスレベル）

I a：系統的レビュー・メタアナリシス
I b：ランダム化比較試験
II a：非ランダム化比較試験
II b：その他の準実験的研究
III：非実験的記述的研究（比較研究、相関研究、症例対照研究など）
IV：専門科委員会や権威者の意見

番号が若いほど、科学的根拠が強いとされます。

ガイドラインの評価と日本の現状

診療ガイドラインの質を評価するために、国際的にはAGREEチェックリストが広く利用されています。このチェックリストは、6つの領域23項目を4段階評価するもので、ガイドラインの質を高める上で重要な役割を果たしています。

日本においては、厚生労働省による検討会を経て、診療ガイドラインの作成と普及が進められてきました。1990年代後半から、複数の診療ガイドラインが作成され、2004年には、日本医療機能評価機構がMinds（Medical Information Network Distribution System）を構築し、ガイドラインの公開・共有を促進しました。

高齢者医療への適用

高齢者を対象とした診療ガイドラインは、若年者向けのガイドラインをそのまま適用できない場合も多く、加齢に伴う生理的変化を考慮した独自のガイドラインが必要とされています。現状では、高齢者医療に関するガイドラインの整備は十分とは言えず、今後の発展が期待されます。

参考文献

津谷喜一郎「日本のEBMの動きからのレッスン－前車の轍を踏まないために」（pdf）『国立教育政策研究所紀要』第140巻、2011年3月、45-54頁、NAID 40018959147。

関連事項

根拠に基づく医療（EBM）
臨床情報工学
日本医療機能評価機構

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