訾敖

訾敖（しごう） - 春秋時代の楚の王

訾敖は姓が羋、氏が熊で、名は比という春秋時代における楚の王である。彼は共王の子として生まれ、その人生は権力の争いに翻弄されることとなる。

彼の生涯は紀元前541年に始まる。この年、郟敖4年において、彼の兄である公子囲が惨殺されたことを契機に、熊比は晋に逃れることとなった。これは彼の人生の大きな転機だった。彼は12年後の霊王12年（紀元前529年）に晋から故郷に戻り、ここから権力を取り戻そうとする。

帰国後、熊比は弟の公子黒肱や公子弃疾、さらに陳や蔡の人々と結託し、兄である霊王に対抗すべく国都の郢を攻撃することを決意した。彼は自身を楚王と名乗り、公子黒肱を令尹に、公子弃疾を司馬に任命した。これにより、彼らは一つの権力体制を築こうとした。

戦闘は激化し、5月には熊比が霊王を自殺に追い込むほどの勢いを持った。しかし、訾敖が霊王の死を知らず、その後の事態は予想もしない方向へと進むこととなる。

周囲の者たちは訾敖に公子弃疾を排除するよう促すが、訾敖はその言葉を拒み、「酷いことはできない」と言い放つ。このように、彼の中には優しさがあったことがうかがえる。

しばらくすると、国都では「王が入城なさった」という噂が広がり、公子弃疾は「王が到着なさった」と宣伝した。これを信じた訾敖と公子黒肱は、霊王の帰還と国民の反乱を信じ込み、ついには自ら命を絶つ事態に至った。

訾敖のこの一連の行動は、春秋時代における権力闘争の一端を示しており、彼の悲劇的な結末はまさに時代の渦に巻き込まれてしまった結果である。彼の物語は、権力を追求することの怖さと、時に情けを捨てざるを得ない状況にある人々の哀しさを伝えている。

参考文献

• - 『史記』楚世家
• - 『春秋左氏伝』昭公元年、13年

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