詳細化

詳細化：抽象から具象への変換

形式手法において、詳細化（Refinement）とは、抽象的な仕様記述から、実際に動作するプログラムへと変換するプロセスを指します。これは、検証可能な段階的な変換によって行われ、システムの設計から実装に至る重要なステップです。

詳細化は、段階的に行うことができます。つまり、抽象的な仕様から一度に具体的なプログラムを作るのではなく、複数の段階を経て徐々に詳細な仕様へと変換していくアプローチです。それぞれの段階では、前の段階の仕様をより具体的に、より実装に近づけていきます。

論理的には、詳細化は含意関係に基づきます。ある仕様Aから仕様Bへの詳細化は、BがAを含意する、つまりAが満たされているならばBも必ず満たされていることを意味します。しかし、この過程では、複雑さが増す場合もあります。より具体的な仕様になるにつれて、考慮すべき要素が増え、実装の難易度も高まる可能性があるからです。

詳細化の反対概念は抽象化です。抽象化は、詳細な情報を隠蔽し、本質的な部分を抽出して表現する方法です。詳細化はその逆で、隠蔽されていた詳細な情報を明らかにしていく過程となります。

プログラムの詳細化

プログラムの詳細化とは、システムの操作に関する抽象的な仕様を、実際に実行可能なプログラムコード（例えば、プロシージャや関数）に変換することです。この変換において、事前条件は弱められ、事後条件は強められます。

事前条件とは、操作を実行する前に満たされていなければならない条件であり、事後条件とは、操作を実行した後に満たされていなければならない条件です。詳細化によって事前条件を弱めるということは、より多くの状況で操作を実行できるようになることを意味し、事後条件を強めるということは、より正確な結果が得られることを意味します。

このプログラムの詳細化のプロセスを通して、仕様に含まれる非決定性を減らし、最終的には完全に決定的なプログラムへと変換することを目指します。非決定性とは、同じ入力に対して複数の異なる出力が可能な状態です。詳細化によって、このような曖昧さを排除し、プログラムの動作を明確にすることが重要となります。

データの詳細化

データの詳細化とは、抽象的なデータモデル（例えば、集合や関係）を実装可能な具体的なデータ構造（例えば、配列、リスト、ハッシュテーブルなど）に変換することです。抽象的なデータモデルは、データの構造や操作に関する高レベルの記述であり、具体的な実装方法を指定していません。詳細化によって、これらの抽象的な概念を、コンピュータ上で実際に表現・操作できる具体的なデータ構造へと変換します。

例えば、変数xのある操作の後、xの値が集合{1,2,3}のいずれかであるとします。この操作を、xの値が{1,2}のいずれかとなる操作へと詳細化し、さらに{1}へと詳細化していくことができます。最終的には、x:=1という具体的な代入文として実装できます。同様に、別の詳細化経路によってx:=2やx:=3という実装も得られる可能性があります。

しかし、xの値が空集合{}となるような操作は詳細化できません。これは、空集合から要素を取り出すことができないためです。このように、詳細化は常に可能であるとは限らず、実装可能性を考慮することが重要となります。

関連概念

具象化 (Reification): Cliff Jonesによって用いられた用語で、オブジェクト指向設計におけるデータモデルの詳細化を指します。詳細化と似た概念ですが、特にオブジェクト指向の文脈で使われることが多いです。
削減 (Retrenchment): 形式的な詳細化が不可能な場合の代替技法です。厳密な数学的関係を維持できない場合などに、ある程度の妥協を許容して詳細化を進める手法です。

関連事項

トップダウン設計とボトムアップ設計
形式手法

詳細化は、システム開発において、抽象的な仕様から具体的な実装へと段階的に移行するための重要な概念です。正確で検証可能な実装を得るためには、詳細化のプロセスを適切に理解し、適用することが不可欠となります。

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