説仮部

説仮部について

概要

説仮部（せっけぶ、梵語でPrajñaptivāda）は、インドの部派仏教の中でも特に大衆部に属する一派です。この部派は大衆部の様々な分派の一つとして発展し、多聞分別説部（Bahuśrutiya-Vibhajyavādin）とも呼ばれています。説仮部の教義は、物事の本質や現象に対する特異な見解を持っており、それが特徴的です。

歴史的背景

世友によれば、説仮部はヒマラヤ地域に基盤を持ち、特にパーラ朝時代（10世紀頃）にマガダ地方周辺で栄華を極めました。ターラナータの文献にも、その時代における説仮部の発展が記されています。説仮部は、大衆部の一部として他の流派と相互に影響を与え合いながら、仏教思想の発展の中で重要な役割を果たしました。

教義の核心

説仮部の教義は、現象はただの観念であり、真実ではないとする点にあります。世友は、彼らが信じるのは、世界の現象は全て概念的なものであり（サンスクリット: prajñapti）、したがって、その現象は苦しみを含むと記しています。彼らは普通の真理（サンスクリット: saṃvṛti）と究極的な真理（サンスクリット: paramārtha）を明確に区別し、実在（サンスクリット: tattva）と観念の違いを理解しました。これは、物事の見かたを哲学的に探求するアプローチを示しています。

説仮部においては、聖道（道）やその価値は、不変で永続するものと信じられています。彼らはこの道を達成するために、瞑想よりも全的な知識（サンスクリット: sarvajñāna）と善行の積み重ねが重要だと考えました。また、彼らは非業の死や聖道達成の結果は善行や業の成果であるとも説いています。

五蘊への見解

興味深いことに、説仮部は五蘊（五つの根本要素）を苦しみの根源とは考えていませんでした。代わりに、彼らは五蘊を究極的な実存を欠いた単なる言葉の構造として捉えました。これは、現象の本質に対する独自の見方を反映しています。

教えとその影響

説仮部の教義は、さまざまな経典に見られるブッダの教えが、言語的であり世俗的であるとする理解に基づいています。それゆえ、彼らはこれらの教えを単なる暫定的な重要性から成るものであると考えました。彼らの教義や思想は、後の大乗経典における立場と非常に近いとされており、その影響の広がりを示しています。

大乗仏教との関連

興味深いことに、説仮部は「二諦」説の初期の提唱者でもあります。この教義は大乗仏教において重要な位置を占めており、方便と一般的な知恵の関係を論じる上でしばしば触れられます。Ian Charles Harrisによれば、説仮部の考えは初期の大乗仏教での二諦説と非常に似ているという指摘があります。

また、著名な論書『中論』の中で、説仮部が好んで引用された文献『Kātyāyana Gotra Sūtra』に対して影響を与えた証拠も存在します。André Bareauは、大乗仏教の起源は初期の大衆部にあると考え、この流派の中で特に説仮部が北と南の大衆部の教義の橋渡しとして重要な役割を果たしたとの見解を示しています。

まとめ

総じて、説仮部はその独自の教義や哲学的視点からインドの仏教において重要な位置を占めています。彼らの教えは、後の大乗仏教に影響を与え、仏教思想の発展に寄与しました。説仮部の考え方は、現実や真実についての深い洞察を提供しています。

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