読書する聖カタリナ

『読書する聖カタリナ』（伊: Santa Caterina leggente, 英: Saint Catherine Reading）は、ルネサンス期のパルマ派の巨匠コレッジョが1530年から1532年頃に描いた油彩画です。この作品は、殉教者として知られる聖人、アレクサンドリアの聖カタリナを主題としています。コレッジョの晩年の作品の一つであり、その制作経緯は不明ですが、作品のサイズから個人礼拝のために描かれたと考えられています。現在、この作品はロンドンのハンプトン・コート宮殿のロイヤル・コレクションに所蔵されています。

この絵画では、学識豊かな女性として知られる聖カタリナが読書に耽る姿が描かれています。彼女は、殉教を象徴する壊れた車輪にもたれかかり、その上に左手を置いています。左手には殉教の象徴であるナツメヤシの葉が握られており、右手には本を持っています。彼女の姿勢はやや前かがみで、リラックスした様子が伺えます。コレッジョは、肌の表現に灰色の下塗りを使用し、涼やかで半透明な印象を与えています。また、唇、鼻孔、目尻にはバーミリオンや茶色が用いられ、肌の温かみも感じさせます。この女性像の表現や色彩の広がりは、コレッジョの晩年の特徴的な作風を示しています。特に、大きな目、水平な眉、繊細な耳、そして骨がないかのように見える柔らかい指の表現は、『レダと白鳥』、『ダナエ』、『ユピテルとイオ』といった彼の他の作品群を想起させます。

車輪に寄りかかり、ナツメヤシの葉を持つ聖カタリナの半身像という構図は、チェザーレ・ダ・セスト、ガロファロ、ドッソ・ドッシ、ロレンツォ・ロットといった北イタリアの画家たちの作品にも見られます。また、レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子であるベルナルディーノ・ルイーニも、聖カタリナを読書する姿で描いています。これらの事実から、コレッジョの描いた聖カタリナのイメージが、レオナルド・ダ・ヴィンチやその派閥によって制作された構図に影響を受けている可能性も指摘されています。

この作品の帰属については、1907年に美術史家ゲオルク・グロナウがコレッジョの作であると認定しましたが、その後セシル・グールドは状態の悪化から工房作または後の時代に作られた模倣作である可能性を指摘し、コレッジョの真筆であることに疑問を呈しました。しかし、多くの研究者はこの絵画をコレッジョの真筆として認め、彼の晩年の作品と位置づけています。

近年行われた修復作業によって、変色していたニスや過去の修復による過剰な塗装が除去され、絵画本来の繊細な色彩やタッチが明らかになりました。これにより、コレッジョの卓越した画技が再評価されることとなりました。

この作品の来歴については、購入者がイングランド国王チャールズ1世、チャールズ2世、あるいはジェームズ2世であるとも言われていますが、少なくともジェームズ2世の時代にはロイヤル・コレクションに加わっており、1688年にホワイトホールで最初に記録されたことが確認されています。

また、この作品は古くから複製が制作されており、その中には聖カタリナが全身または七分丈で膝をついている姿を描くために構図を拡張したものが存在します。一般的に、このような構図の拡張は、キャンバスの四辺が切り詰められる以前の絵画の元のサイズを示唆することが多いのですが、本作品の場合はそうではないと考えられています。また、他の複製は、現在知られているサイズに近い形で描かれています。

この作品は、コレッジョの卓越した技術と芸術的感性を今に伝える重要な作品であり、鑑賞者に深い感動を与え続けています。

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