ドッソ・ドッシ

ドッソ・ドッシ（Dosso Dossi, 1490年頃-1542年）は、ルネサンス期のイタリアを代表する画家の一人です。本名をジョヴァンニ・ディ・ニッコロ・デ・ルテーリといい、フェラーラ派に属していました。彼の生涯は、謎に包まれている部分も多く、詳細な記録は残されていません。しかし、その作品は、独創的な世界観と卓越した技術によって、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

生涯

ドッシの誕生地はミランドラのトラムスキオであると考えられていますが、若い頃の詳しい情報や、どこで絵画の修行を積んだのかは不明です。父親がフェラーラ公の会計係であったことから、彼は地元のロレンツォ・コスタ、またはマントヴァで絵画を学んだ可能性があります。1514年にはフェラーラ公の宮廷に仕え、以降30年間、アルフォンソ1世・デステとエルコレ2世・デステに仕えました。後に、宮廷の主席画家としてその才能を遺憾なく発揮しました。弟のバッティスタも画家で、ラファエロの工房で修行しており、兄弟で共同制作することも多かったようです。

ドッシは、フェラーラ公のために、家具や劇場のセットなど、一時的な装飾も多く手掛けました。また、ガロファロと共に仕事をした記録も残っています。彼の弟子には、ジョヴァンニ・フランチェスコ・スルキ、ガブリエーレ・カペッリーニ、ヤコポ・パニッチァーティなどがいます。

作風

ドッシの作風は、自然主義的な描写と、細部にまでこだわったデザインが特徴です。特に、神話をテーマにした作品では、寓意に富んだ奇想が散りばめられており、見る者を独特な世界へと引き込みます。美術史家のフリードバーグは、ドッシの作風を「スプレッツァトゥーラ」（難しいことを簡単に見せること）という言葉で表現し、その戯画的な表現、原始主義的な要素、そして比率を歪曲させたエキセントリックな感覚を評価しました。彼はまた、棚飾りにはあまり使われない明るい色彩を大胆に使用したことでも知られています。

ドッシの作品には、コレッジョの影響が見られるものも存在します。例えば、『キリスト降架』では、コレッジョの作品を彷彿とさせるような、ゆらめくような質感が表現されています。

エステ城内にあるアルフォンソ1世・デステの「カメリーノ・デ・アラバストロ」は、ジョヴァンニ・ベリーニの『神々の祝祭』やティツィアーノの『ヴィーナス崇拝』といった官能的な作品が飾られていましたが、ドッシのフリーズ画『エリュシオンの野のアエネアス』もその一部を飾っていました。この作品は、ウェルギリウスの『アエネイス』の第6巻からインスピレーションを得ており、アエネアスがクマエの巫女の導きでエリュシオンへ向かう場面を描いています。森の中では、様々なポーズを取る裸の人々が描かれ、端には竪琴を持ったオルフェウス、奥には幽霊のような白い馬が描かれています。

『ヘラクレスとピグミーたち』では、アンタイオスを倒した後のヘラクレスが眠っている間に、親指ほどの大きさのピグミーたちに襲われる場面が描かれています。ヘラクレスの持つライオンの毛皮は、ピグミーたちを包み込むために使用されます。逞しく描かれたヘラクレスの姿は、当時のフェラーラ公エルコレ2世・デステの権威を表していると解釈されています。

代表作

ドッシの代表作としては、以下のような作品が挙げられます。

『聖家族と寄付者』（1514年）フィラデルフィア美術館
『人間の三世代』（1515年）メトロポリタン美術館
『運命の寓意』（1530年頃）ゲティ・センター
『エリュシオンの野のアエネアス』（1518年-1521年）カナダ国立美術館
『アエネアス』バーバー・インスティチュート・オブ・ファインアート
『ヘラクレスとピグミーたち』グラーツ州立博物館ヨアネウム
『パーンの神話』ゲティ・センター
『音楽の寓意』ホーン美術館
『ヘラクレスの寓意 (魔術)』（1535年頃）ウフィツィ美術館
『聖ミカエル』アルテ・マイスター絵画館
『聖ゲオルギウスとドラゴン』アルテ・マイスター絵画館
『洗礼者ヨハネと福音記者ヨハネの前に現れた聖母』（1520年代）ウフィツィ美術館
『ユピテル、メルクリウスと美徳』（1524年）ヴァヴェル城
『戦士の肖像』ウフィツィ美術館

ドッソ・ドッシは、その独特な作風と才能によって、ルネサンス美術史に確固たる地位を築きました。彼の作品は、今もなお、多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けています。

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