諸道聴耳世間猿

諸道聴耳世間猿

『諸道聴耳世間猿』は、上田秋成が1766年に発表した読本作品で、江戸時代の娯楽文化を反映した独特の物語群を特徴としています。この作品は、彼の物語としては初となるもので、通称「和訳太郎」としても知られる戯名で発表されました。

作品の概要

全五巻から成るこの作品は、15の物語から構成されています。各話では、兵法家や相撲取り、商人、女武道家、芸妓、祈祷師といったさまざまな職業や芸能に従事する人々が登場し、彼らの起こす騒動をユーモラスに描いています。ほとんどの登場人物は、当時実在していたことがうかがえ、当時の社会状況や人々の姿を垣間見ることができます。

収録内容

以下に作品に収録されているいくつかの物語を紹介します。

要害は間に合はぬ商人の城廓

和泉堺の薬屋が武芸に熱中し、自らを小西行長の末裔と称して大名に召し抱えられようと奮闘しますが、果たしてこの商人の運命は？

貧乏は神とゞまります裏貸家

神道者の未亡人が娘を舞子として大もうけし、二人目の夫は神主に転職します。この夫婦の奇妙な運命が描かれています。

文盲は昔づくりの家蔵

無学の米商人が偽の茶器を掴まされ、「目違い先生」と陰口を叩かれる様子は、滑稽さとともに無知の恐ろしさを示しています。

孝行は心ありけり相撲取り

貧しい力士が福の神に助けられ勝利を収めますが、病気に苦しむ姿は、彼の信仰心を試すような展開を見せます。

宗旨は一向　目の見えぬ信心者

旅先で血を見る悲劇に見舞われた信者の物語が、運命の残酷さを伝えています。

これらの話は、各エピソードごとに異なるテーマを持ち、笑いや教訓を交えながら人間模様が展開されます。

特徴と意義

『諸道聴耳世間猿』は、江戸時代の庶民の生活や風俗を色鮮やかに描写しており、文学としてだけでなく、当時の社会を理解するための重要な資料となっています。また、登場人物の個性豊かなキャラクターがユーモアを交えたストーリーで彩られているため、現代の読者にも楽しめる内容です。

さらに、この作品には続編『続諸道聴耳世間猿』が予定されていましたが、未発表に終わりました。上田秋成の作品は、その後の文学にも影響を与え、彼の評価を高める要因となったのは言うまでもありません。

参考文献

上田秋成に関する様々な研究が行われており、彼の文学世界を深く掘り下げたい方は以下の文献も参照することをおすすめします。

• - 佐藤春夫『上田秋成』
• - 高田衛『上田秋成研究序説』
• - 重友毅『秋成の研究』
• - 長島弘明『秋成研究』

このように、上田秋成の『諸道聴耳世間猿』は、江戸時代の多彩な人々や職業を描いた傑作であり、今なおその魅力は色あせることがありません。

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