警察無線

警察無線とは

警察無線とは、警察機関が業務で使用する無線通信の総称です。警察活動における情報伝達という重要な役割を担い、事件や事故の現場と警察本部などとの間で、迅速かつ確実な通信を可能にするためのものです。しかし、そのシステムは国によって異なり、消防無線などと共用されている場合もあります。

歴史

警察無線システムが導入される以前、警察官は担当区域での連絡手段として、公衆電話や交番の電話を使用するか、直接会って口頭で連絡するしかありませんでした。緊急時の応援要請などは、電話までたどり着く必要があり、迅速な対応が困難でした。

世界初の警察無線システムは、1928年にアメリカ合衆国デトロイトで導入されました。デトロイト市警察は、犯罪情報をパトカーに一斉に伝えるために、一方向の無線システムを導入しました。その後、1933年にニュージャージー州ベイヨンで初の双方向警察無線システムが導入されました。当初はパトカーと警察署に限定されていた無線機も、1960年代には携帯無線機が登場し、すべての警察官が利用できるようになりました。現代では、モバイルデータ端末によって効率的な部隊管理や警察官の配置が行われています。また、初期の警察無線は傍受が容易でしたが、現在では暗号化技術により傍受が困難になっています。

日本の警察無線

日本の警察無線は、主に以下の4つの系統で構成されています。

1. 車載通信系
パトカーや白バイなどの警察車両、航空機、船舶に搭載されており、警察署や警察本部の各部署にも配備されています。最も広範囲をカバーする通信系であり、事件の指令や応援要請など、警察活動における重要な役割を担っています。

特徴
広範囲をカバーし、警察官への指示伝達をスムーズに行う
通信指令本部から各警察署や警察官へ指令を迅速に伝達
中継所を介して広範囲の無線局との相互通信が可能
主要な地下街やトンネルなど電波の届きにくい場所もカバー
1950年頃から導入され、移動体通信の先駆けとなった
歴史
初期は30MHz帯を使用していたが、ノイズの影響が大きいため、150MHz帯に移行
150MHz帯では、山上中継所を活用することで広範囲の通信を可能にした
デジタル化により傍受が困難になり、データ通信にも利用されるようになった
2003年には、新型のAPRシステムに移行し、通信品質とセキュリティが向上した
東日本大震災では、山上無線中継所が重要な役割を果たした

2. 携帯通信系
部隊活動用に用いられる通信システムで、中継所を介さない単信通信です。捜査や機動隊の活動、雑踏警備などで使用されています。

3. 署活系 (署外活動系)
警察署と署外活動中の警察官、あるいは警察官同士で通信するために整備されたものです。警察署単位で350MHz帯の周波数が割り当てられており、デジタル変調方式で暗号化された信号が送受信されます。

特徴
警察署と署外の警察官との間で通信
盗難車などの手配照会ができるシステムも搭載
広域署活系では、中継所を設けて通信範囲を拡大
デジタル化により傍受が困難になり、位置情報の送信も可能になった
地域警察デジタル無線システム（PSWとPSD）の導入により、より効果的な警察活動を支援
PSWは音声通信に加え、GPSによる位置情報送信が可能
PSDは写真送信や110番通報に関する情報配信が可能
多セル方式の基地局設置により、より安定した通信を実現

4. WIDE通信システム
警察電話と同様の同時双方向通話が可能で、警察電話や一般公衆回線に接続できます。捜査や幹部系車両を中心に搭載され、大ゾーン方式と中ゾーン方式を併用して使用されています。以前は移動警察電話システム(移動警電)が使用されていましたが、傍受の問題からWIDEシステムに代替されました。2016年9月に運用を停止し、IPRシステムへ統合されました。

IPR形移動無線通信システム

警察庁は、老朽化が進む現行のAPR形警察移動通信システム、パトカー照会指令システム（PAT）、WIDE通信システムを統合・更新し、「IPR形移動無線通信システム」および「IPR形IP移動通信システム」としています。これにより、大規模災害時の通信維持やセキュリティ強化が図られます。

技術

使用される周波数は公表されていませんが、150MHz帯、300MHz帯、800MHz帯（トンネル内通信用）などが使用されています。無線機は、県内系デジタル無線、APR形無線機などがあります。アンテナは、パトカーの場合、150MHz帯のλ/4ホイップアンテナが一般的です。

その他の通信系

警察無線以外にも、マイクロ多重回線、補助中継回線、鉄道警察隊専用波、ヘリテレ連絡波、ヘリコプター運航管理用無線、短波無線電話などの通信系があります。

歴史

戦前には、新潟県で超短波無線電話が導入された例があります。第二次世界大戦中は、伝書鳩による通信も試みられました。戦後は、旧海軍の機材や人員を転用して警察通信網が整備されました。1950年には、超短波無線電話機が実用化され、警察通信の大きな転換期となりました。

1946年に来日したアメリカの警察専門家による勧告を受け、アメリカ製の超短波周波数変調方式無線電話機が導入され、実地試験が行われました。その後、各都道府県で整備が進められ、1950年代には、警察無線は急速に発展しました。

1948年に発足した自治体警察でも、無線整備が進められました。主権回復後は、警察自営の通信回線整備が重要な課題となり、全国的なマイクロ多重回線網が構築されました。その後、技術の進歩に伴い、デジタル化やIP化が進められ、現在の警察無線システムに至っています。

年表

1948年：30MHz帯アナログFMで開始
1949年：国産無線機「PR-1」開発
1950年：電波法に基づく無線局免許交付
1958年：受令機を開発導入
1959年：150MHz帯を使用開始
1963年：携帯無線機を開発導入
1969年：150MHz帯携帯無線機「UW-10」開発
1974年：400MHz帯携帯無線機を開発導入
1979年：小型携帯無線機「UWS-1」開発
1983年：無線中継を使った車載無線システムのデジタル化を開始
1994年：WIDEシステム導入
2003年：新型デジタル無線APR導入開始
2011年：地域警察デジタル無線システム(PSW/PSD)の本格運用開始

海外の警察無線

イギリスでは、内務省が主導して警察や消防などの無線通信システムの共用化が図られています。また、警察情報技術局（PITO）が設立され、警察向けの情報通信技術の調達や契約管理などが行われています。

アメリカでは、警察無線を合法的に聴くことができ、専用のスマートフォンアプリなどで視聴できます。

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