谷牧

中華人民共和国の政治家、谷牧（こくぼく）は、経済改革・開放政策や伝統文化の振興など、多岐にわたる分野で重要な足跡を残した人物です。元の名は劉家語でしたが、日中戦争の戦禍が広がる中、家族に累が及ぶことを懸念し、「谷牧」と改名したとされます。後に彼は国務院副総理や全国政治協商会議副主席といった要職を歴任し、現代中国の発展に大きく貢献しました。

生涯の初期

1932年7月に中国共産党へ入党した谷牧は、中華人民共和国建国後、まず済南市党委書記を務めました。1952年には上海に移り、市党委宣伝部長、副書記、工業生産工作委員会書記、華東局工業部長、上海局委員など、上海市の行政と工業を担う重要な役職を歴任しました。その後、1954年11月には中央政府へと移り、国家建設委員会副主任、次いで1956年には国家経済委員会副主任に就任します。1965年4月には国家建設委員会主任に昇進し、国家の建設事業を指揮する立場となりました。

文化大革命と復活

しかし、1966年に始まった文化大革命の混乱の中で、谷牧もその影響を受け、1968年に政治の表舞台から姿を消しました。厳しい時期を過ごしましたが、情勢が変化するにつれて、1973年には国家基本建設委員会および国家計画委員会の副主任として政界に復帰します。そして、1975年1月に開催された第4期全国人民代表大会第1回会議において、国務院副総理へと昇進しました。

経済改革・開放への貢献

副総理として再任された1978年5月、谷牧は中国経済代表団を率いてヨーロッパ5カ国を訪問しました。当時の西側諸国の発展ぶりを目の当たりにし、中国の立ち遅れを痛感した彼は、大きな衝撃を受けました。この時期、日本を視察し同じく中国の現状に強い危機感を持っていた鄧小平をはじめとする改革派指導者たちの賛同を得て、谷牧は外国から資金を借り入れ、先進的な工業設備を導入するという大胆な近代化計画を提案しました。当時の中国には「自力更生」を重んじる思想が根強く残っており、保守派からは「国を売り渡す行為だ」と激しい非難を浴びましたが、同年年末の中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議（三中全会）で改革派が主導権を確立すると、谷牧は積極的に外国からの資金調達に奔走しました。

彼は特に日本との経済協力に深く関わり、1979年に開始された日本の政府開発援助（ODA）の導入に主導的な役割を果たしました。これにより、中国のインフラ整備や産業近代化が大きく進展しました。谷牧はその後も1988年まで、国務院において対外開放業務全般を担当し、中国が国際社会との関わりを深める上で重要な役割を果たしました。彼はまた、中国共産党第11期、第12期の中央委員および中央書記処書記を務めました。

晩年の活動と儒教復興

1988年に国務委員の役職を退いた後、谷牧は同年4月に開催された第7期全国政治協商会議で副主席に選出されました。政協副主席として、彼は中国の伝統文化、特に儒教の復権と振興に力を入れました。自らの郷里である山東省にちなみ、孔子の名を冠した「孔子基金会」を設立し、その活動を熱心に進めました。孔子の子孫の系譜をまとめた「孔子世家譜」の完成を目指す際には、孔子第77代の子孫である孔徳墉氏の協力を得て、台湾にいた孔子第77代嫡孫の孔徳成氏から同意を取り付けるなど、困難な課題にも取り組みました。さらに、海外の大学に設置され、中国語教育や儒教文化の発信拠点となっている「孔子学院」の設立にも深く関与し、その実現に貢献しました。

日本からの叙勲、そして死去

日中経済関係における谷牧の功績、特に日本の中国に対する円借款導入において指導的な役割を果たしたことは高く評価されています。この貢献に対し、2008年4月には日本政府より旭日大綬章（Grand Cordon of the Order of the Rising Sun）が授与されました。

長年にわたり中国の発展に尽力した谷牧は、2009年11月6日、北京で病のため、95歳でその生涯を終えました。

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