豆粒文土器

豆粒文土器：世界最古級の土器の謎に迫る

発見と命名

長崎県佐世保市瀬戸越の泉福寺洞窟、国の史跡として知られるこの場所で、1973年に行われた発掘調査において、それまで世界最古とされていた隆起線文土器よりも古い地層から、独特の土器が発見されました。この土器は、当時國學院大學講師であった麻生優氏によって「豆粒文土器」と命名されました。発見されたのは、洞窟内の第10層。1975年の発掘調査では、さらに下の第11層からもほぼ完全な形での出土が確認され、隆起線文土器とは異なる新たな土器の種類であることが確定しました。

特徴的な形状と文様

豆粒文土器は、ラグビーボールの下部を切り落としたような独特の形状をしています。胴部は膨らみを持ち、底は丸底に近い平底です。初期の復元ではU字形とされていました。最大の特徴は、その名にもなっている「豆粒状の粘土粒」です。この粘土粒が、口縁部から胴体部にかけて規則的に貼り付けられています。口縁部では約1.5cm間隔、胴体部では3～4cm間隔で並んでいる様子が確認できます。一方、表面の下部と内面には粘土粒は見られません。

さらに、一部の破片からは繊維が混入されているものや、破損後の補修痕跡も発見されています。土器の表面、特に胴体部には煤が付着していることから、煮炊きなどの調理に使用されていたと推測されています。

年代と位置づけ

泉福寺洞窟からは、豆粒文土器と同時に隆起線文土器や旧石器時代の細石刃なども出土しています。これらの共伴関係から、豆粒文土器は隆起線文土器よりも古い、世界最古級の土器であると考えられています。第10層の上にある第9層で発見された焼石炉の年代測定（熱ルミネッサンス法）では、約11,840±740年前という結果が出ており、豆粒文土器はその下層から出土しているため、それよりも古いことは確実です。放射性炭素年代測定法やフィッショントラック法などの分析、そして地層の年代分析を総合的に判断すると、隆起線文土器は約12,000年前、豆粒文土器は約13,000年前と推定されてきました。しかしながら、最新の研究では約16,000年前という可能性も示唆されています。

分布と今後の研究

泉福寺洞窟以外での明確な出土例は少ないものの、長崎県福井洞窟や鹿児島県加治屋園遺跡など、隆起線文土器の出土する遺跡で、豆粒文土器と類似した土器片が見つかっています。関東地方でも同様の破片が出土しているとの報告もあります。今後の研究では、これらの断片的な出土例を詳細に分析することで、豆粒文土器の製作範囲や文化的な広がり、そしてその謎を解き明かす鍵が得られるかもしれません。世界最古級の土器として、豆粒文土器は、縄文文化の起源を探る上で非常に重要な資料であり、今後の研究に期待が寄せられています。

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