福井洞窟

福井洞窟：日本列島における人類史の黎明を語る

福井洞窟は、長崎県佐世保市吉井町に位置する、後期旧石器時代から縄文時代草創期にかけての複合遺跡です。佐々川の支流、福井川に面したこの洞窟は、間口12メートル、奥行き6メートル、高さ3メートルの岩陰状を呈し、標高80メートルの稲荷神社境内にひっそりと佇んでいます。

発見と発掘

福井洞窟の存在が明らかになったのは、地元の郷土史家、松瀬順一氏が稲荷神社の改修工事中に石器を発見したことがきっかけでした。その後、芹沢長介氏らによる3回の発掘調査（1960年～1964年）によって、この洞窟が極めて重要な遺跡であることが判明しました。近年では、平成23年度から平成27年度にかけて、洞窟の成因や古環境、そして人との関わりを復元することを目的に、再度の発掘調査が行われました。

地層と出土品

福井洞窟からは、7層の遺物包含層が確認されており、各層から出土した遺物は、当時の人々の生活や文化を物語っています。

第1層：縄文時代早期の石鏃や押形文土器が出土。
第2層：船底形の細石核と細石刃、爪形文土器が出土。
第3層：船底形の細石核と細石刃、隆起線文土器が出土。これらの土器は、炭素14年代測定法により、12,000～13,000年前のものとされています。
第4層：半円錐形の細石核と細石刃、片面調整円形石器、尖頭器が出土。
第7層：黒曜石の小石核と小石刃が出土。
第9層：サヌカイトの石核と翼形剥片が出土。
* 第15層（最下層）：九州最古となるサヌカイト製の大型石器（槍先形両面調整石器、削器）や刃型剥片が出土。C14年代測定法では、35,000年以上前のものと推定されています。

特に注目すべきは、第2層から第4層にかけて出土した土器です。これらは、日本で初めて発掘された旧石器時代の土器であり、土器製造の歴史を遡る上で非常に重要な発見となりました。また、第2層から第7層にかけては、多様な細石核が出土しており、日本列島における細石器製造技術の変遷を知る上で貴重な資料となっています。

黒曜石の利用

第7層からは、初めて黒曜石の使用が確認されました。これは、当時の人々が、松浦市星鹿半島や伊万里市腰岳、佐世保市東浜や針尾島、川棚の大崎半島など、各地の黒曜石産地と交流していたことを示唆しています。

文化財としての価値

福井洞窟は、その学術的価値の高さから、国の特別史跡に指定されています。また、出土品は国の重要文化財に指定されており、福井洞窟ミュージアムに保管・展示されています。これらの文化財は、人類の歴史と文化を理解する上で欠かすことのできない貴重な資料です。

アクセス

福井洞窟へは、西肥バス「下福井」バス停から徒歩3分、または松浦鉄道西九州線吉井駅から車で7分です。福井洞窟ミュージアムでは、出土品の展示や解説を通じて、福井洞窟の歴史と文化に触れることができます。

福井洞窟は、私たちに、遥か昔に生きた人々の息吹を感じさせてくれる、貴重な文化遺産です。この洞窟を訪れ、悠久の歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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