豊倉孝治

豊倉孝治（とよくら たかはる）氏は、1951年5月10日に千葉県で生まれた、日本の元プロ野球選手です。マウンドに立つ投手としてプロの世界に足を踏み入れ、引退後はスコアラーとして長年にわたりチームの頭脳を担いました。

野球人生の始まりは、地元の千葉県立安房高等学校でした。高校時代、豊倉氏はチームの主戦投手として活躍。1968年の秋季関東大会県予選では準決勝まで駒を進めるも、強豪・銚子商業高校の前に惜敗しました。その後も県予選の壁は厚く、聖地甲子園への出場は叶いませんでしたが、その投球には目を見張るものがありました。特に印象的なのは、高校時代に二度もノーヒット・ノーランを達成したことです。この記録は、当時の彼の圧倒的な実力と潜在能力を示すものでした。さらに、1968年には千葉県選抜チームの一員としてフィリピン遠征に参加し、遠征先で最高殊勲選手に選ばれるなど、国内のみならず国際的な舞台でもその才能を発揮。将来を嘱望される本格派投手として、多くの注目を集めました。

高校卒業後、豊倉氏は日本軽金属に入社し、社会人野球に進みました。しかし、社会人野球でのキャリアは長くは続かず、入社からわずか一年後の10月には退職を決意します。そして、1970年のプロ野球ドラフト会議において、西鉄ライオンズから3位指名を受けることとなりました。この指名を受け、豊倉氏は念願のプロ野球選手としてライオンズに入団しました。

プロ入り後、背番号「52」をつけた豊倉氏は、ルーキーとして迎えた1971年シーズン、春季キャンプから首脳陣にアピールしました。オープン戦では、彼が得意としたスライダーやカーブを効果的に使い、ベテラン選手顔負けの堂々たるピッチングを披露。開幕一軍入りを果たします。同年4月21日には、プロとして初めて一軍の公式戦で先発マウンドを経験しました。対戦相手は近鉄バファローズ、相手先発は球界を代表する左腕、鈴木啓示投手でした。しかし、この日の豊倉氏は本来のピッチングができず、2回を投げ終えて3失点を喫し、無念の降板となります。この試合以降、一軍での登板機会は限られ、結局、このシーズンの一軍公式戦登板はわずか3試合にとどまりました。その後も一軍定着はならず、背番号を「63」に変更するなど再起を図りますが、怪我や不調もあり、期待された成績を残すことはできませんでした。そして、プロ入りから6年目となる1976年シーズン終了をもって、豊倉孝治氏はプロ野球選手としての現役生活にピリオドを打ちました。

現役引退後も、豊倉氏は愛着ある球団に残り、野球に携わり続けました。選手としてではなく、裏方としてチームを支える道を選んだのです。彼は打撃投手としてチームメイトの練習をサポートする傍ら、スコアラーとしての役割を担うことになりました。スコアラーは、相手チームの選手や戦術を徹底的に分析し、自チームの戦略立案に貢献する重要なポジションです。豊倉氏はこのスコアラーとして優れた手腕を発揮しました。特に1980年代、チーム名が西武ライオンズに変わってからの「黄金時代」を、彼はスコアラーという立場で支えました。相手打者の癖や投手攻略の糸口を見つけ出すその能力は高く評価され、「名スコアラー」として球界にその名を知られることになります。スコアラー時代の背番号は「85」（1980年 - 1981年）、「94」（1982年 - 1989年）と変遷しました。

1990年からは、活躍の場を福岡に移し、福岡ダイエーホークスでスコアラーを務めることになりました。ここでも背番号「103」を背負い、引き続きプロ野球の舞台でチームを勝利に導くための分析に尽力しました。

現役選手としてプロでの記録はわずかなものに終わりましたが、引退後、特にスコアラーとしての豊倉孝治氏の功績は、西武ライオンズの黄金時代を支えた裏方の重要な柱として語り継がれています。グラウンド上の華やかな舞台とは異なる場所で、彼は自身の知識と経験を活かし、プロ野球という世界に深く貢献し続けたのです。

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