豊岡劇場

豊岡劇場（とよおかげきじょう）

兵庫県豊岡市の市街地、中央公園の北端近くに位置する豊岡劇場は、「豊劇」の愛称で親しまれる但馬地方で唯一の映画館です。二つのスクリーンを備え、長年にわたり地域の映画文化を支えてきました。

歴史と建物

その歴史は古く、1927年（昭和2年）頃に芝居小屋として産声を上げました。1931年（昭和6年）には有限会社が設立され、劇場としての活動を開始。戦時中の一時期を除き運営を続け、1947年（昭和22年）からは劇場や映画上映に加え、社交ダンス場としても利用されるなど、多目的な文化拠点としての顔も持っていました。そして1951年（昭和26年）には、映写室の設置などの改築を経て、正式に映画専門館としての営業を開始しました。

豊岡劇場の建物自体にも特筆すべき点があります。これは昭和初期に建てられた近代建築で、1925年（大正14年）の北但大震災の教訓から、鉄筋コンクリート造の堅牢な「看板建築」として設計されました。正面には「豊岡劇場」と大きく書かれた特徴的なファサードが見られ、館内にはレリーフやメダリオンといった装飾が残り、随所にレトロな雰囲気を醸し出しています。その歴史的・文化的価値は広く認識されており、2007年（平成19年）には「レトロを訪ねる 映画館編」として週刊誌でも紹介されるほどです。

但馬地方においては、2006年（平成18年）に養父市の八鹿映画劇場が閉館したことにより、豊岡劇場が地域で唯一の映画館となりました。開業から80年以上にわたり、豊岡市を代表する映画館として多くの人々に愛されてきましたが、県内や近郊に増加したシネマコンプレックスとの競争激化、そして映画上映のデジタル化への対応の遅れなどから経営が悪化。残念ながら2012年（平成24年）3月31日をもって、85年に及ぶ歴史にいったん幕を下ろしました。

復活、そして再びの試練

閉館から約2年が経過した2014年（平成26年）7月、劇場の復活を願う有志によって「豊劇新生プロジェクト」が立ち上げられました。経営は豊岡市日高町の不動産業者である有限会社石橋設計に引き継がれ、活動は本格化します。再開に必要な資金の一部はクラウドファンディングで募られ、110名からの支援により目標額を上回る約271万円が集まりました。この際、出資者の約8割が地元住民であったことは、地域における豊劇の存在の大きさを物語っています。また、映画上映のデジタル化に対応するため、約1200万円を投じてデジタル映写機2台を導入。この費用には国の補助金も活用されました。

こうして、2014年（平成26年）12月27日、豊岡劇場は2年間の沈黙を破り、再びその扉を開きました。再開にあたり、施設の改修も行われています。スクリーン数は二つのままですが、客席数は大ホールが186席、小ホールが50席へと合計14席減らされました。大ホールには新たにステージが設けられ、ライブ演奏なども可能な多目的空間に生まれ変わりました。小ホールの椅子は可動式となり、集会場としての利用も想定されています。ロビーにはカフェバーも設置され、映画鑑賞以外の目的でも立ち寄りやすい空間となりました。

再開後、豊岡劇場は順調に入場者数を増やし、2019年には年間約1万8千人を記録するまでになりました。しかし、長年の赤字体質からの脱却を目指す矢先に、新型コロナウイルスのパンデミックが発生。2020年と2021年の入場者数は約8千人にまで落ち込み、経営は再び厳しい状況に直面します。これにより、事業承継の可能性を模索するため、2022年（令和4年）8月31日をもって、やむなく一時休館に入ることとなりました。

地域と共に、未来へ

休館期間中、劇場の存続に向けた新たな動きが生まれます。2022年（令和4年）9月、「豊岡コミュニティシネマ」が設立され、同年10月からは法人・団体、そして個人を対象としたサポーター制度を通じて支援を募りました。地域の人々の温かい支えに応える形で、豊岡劇場は2023年（令和5年）3月25日、再び営業を再開することができました。

現在の施設概要は以下の通りです。

大ホール: 186席、ドルビーステレオ対応。舞台設備あり。
小ホール: 50席、ドルビーステレオ対応。
チケット売場、売店（酒類販売あり）
お手洗い2箇所
ブラウジング・コーナー（約10席）
飲食店1店舗併設
* 駐車場（20台）

豊岡駅からは北東へ約1.1km、徒歩で13分程度の距離にあります。また、市街地循環バス「コバス」の北ルートを利用し、「アイティ前」乗車、「滋茂」下車後すぐという公共交通機関でのアクセスも可能です。自家用車の場合は、立野橋交差点を北上し立野北交差点を左折するとすぐに到着します。

芝居小屋から始まり、幾度かの困難を乗り越えてきた豊岡劇場は、単なる映画館という枠を超え、地域の歴史や文化と深く結びついた場所として、これからも人々に親しまれていくことでしょう。

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