豊川稲荷札幌別院

豊川稲荷札幌別院：薄野の歴史と信仰が織りなす物語

豊川稲荷札幌別院は、北海道札幌市に位置する曹洞宗玉宝禅寺の別称です。本院は清田区北野、祖院は中央区南7条西4丁目にそれぞれ所在し、愛知県豊川市の豊川稲荷の別院として知られています。祖院は明治31年(1898年) 、本院は昭和59年(1984年)に建立されました。

祖院：薄野の繁華街と深い繋がり

祖院は、かつて札幌の歓楽街として栄えた薄野に位置しています。明治時代初期、遊廓の設置とともに発展した薄野では、商売繁盛を祈願する稲荷神への信仰が根付いていました。1880年代には既に稲荷堂が存在し、1894年、地元の酒造業者・波多野与三郎氏を中心に、豊川稲荷の分霊を祀る計画が持ち上がります。

波多野氏の尽力と、料亭、芝居小屋、遊郭、見番など、花柳界関係者からの多額の寄付金により、1895年から建設が始まり、1898年に落成しました。以来、「薄野の守護神」として地域の人々の篤い信仰を集め、玉垣や門柱には、地元有力者や芸妓の名前が刻まれています。特に、昭和初期までは、水商売に携わる女性によるお百度参りが盛んに行われていたと言われています。また、例大祭は札幌三大祭の一つに数えられるほど盛大なものでした。

1976年には、「薄野花街哀悼碑」が建立され、花柳界の無縁仏と水子への追悼が行われています。現在の境内は再開発により縮小されましたが、本殿や門柱などの遺構は、当時の薄野の面影を伝えています。

本院：新たな祈りの場

清田区の本院は、祖院の開創88年を記念して1984年に建立されました。本院と祖院では現在も水子供養が行われ、毎月24日には合同法要、毎年5月24日には水子石碑建立記念法要が執り行われています。

教育・文化事業：地域社会への貢献

祖院は、教育・文化事業においても重要な役割を果たしました。1925年には、境内に聾唖児の矯正施設「北海道吃音矯正学院」が設立され、その後、盲児教育施設と合併して「私立札幌盲唖学校」となりました。3代目住職の牧野仰鍬氏の支援により、水墨画家の谷口香巌氏による茶道と水墨画の講習会が開かれ、多くの文化人を輩出しました。また、北海道日本画協会の活動拠点ともなり、地域文化の発展に貢献しました。

年間行事

本院と祖院では、様々な年中行事が行われています。主な行事として、新年の祈祷会、彼岸法要、施食会、水子供養などがあり、日常的に水子供養を受け付けています。祖院では、毎月24日の水子合同供養法要も重要な行事となっています。

境内とその他の見どころ

本院には釈迦如来と豊川ダキニ真天が祀られており、祖院の本殿は権現造建築様式で豊川ダキニ真天が祀られています。祖院の門柱には、かつての芸妓組織である見番の名前が刻まれています。境内には、句碑や三岸好太郎生誕地掲示板など、歴史を感じさせるものが残されています。

アクセス

本院は地下鉄東西線南郷18丁目駅から、祖院は地下鉄南北線すすきの駅からアクセス可能です。

まとめ

豊川稲荷札幌別院は、薄野の歴史と深く結びつき、信仰と文化が交差する場所です。遊郭時代の面影を残す遺構や、水子供養、文化事業などを通して、札幌の歴史と文化を今に伝えています。その歴史的意義と、現在も続く信仰の灯は、多くの人々にとって貴重な存在となっています。

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