豊田薫 (外交官)

豊田薫：戦前シンガポール総領事と情報活動

豊田薫（とよだ かおる）は、日本の外交官であり、特に太平洋戦争開戦前、シンガポール総領事としての活動が注目されています。1939年9月から1940年10月まで、彼は在シンガポール日本総領事を務め、その在任期間中に、領事館の「嘱託」職員による情報収集活動を指揮したとされています。この活動は、コックス事件や篠崎スパイ事件といった事件に関連し、領事館職員がイギリス海峡植民地警察当局に逮捕される事態を招きました。また、日本占領下のシンガポール（昭南特別市）では、政庁総務部長を務めました。

生涯と経歴

豊田薫は東京商科大学（現在の一橋大学）を卒業後、外務省に入省しました。彼の外交官としてのキャリアは、以下の通りです。

在ワシントンD.C.日本大使館付
在ロサンゼルス副領事
在上海大使館書記官
在ハーグ公使館書記官
1937年：外務省調査部第4課長
1939年9月：シンガポール総領事
1940年11月：外務省南洋局第1課長

1942年2月、マレー作戦を実施した日本軍（第25軍）に軍政要員として同行し、占領直後のシンガポールに入りました。彼は、シンガポール総領事時代に旧知であったイギリス海峡植民地政府の民政長官代理・ワイスバーグと会見しています。大達茂雄が昭南特別市長に着任するまでの間、彼は事実上の代理市長として活動しました。

その後、同年3月に軍政本部から市政庁に移り、昭南特別市政庁総務部長に就任しました。1943年6月には上海総領事に任命されています。

情報活動と尋問

豊田は、1946年5月24日に米軍OCCIO（占領軍民間諜報部）で尋問を受けました。この尋問で、1939年9月から1940年10月までの英領マラヤ総領事時代における、日本領事館員のスパイ活動について質問されました。豊田自身は、情報工作への直接的な関与を否定しましたが、自身の知らないところで領事館員がスパイを使っていた可能性を示唆しました。

在任中のシンガポール総領事館には、以下のような職員が勤務していました。

橋詰某：副領事
島貫某：商務嘱託
永山某：海軍予備士官
斎藤某ほか数名：一等書記官
篠崎護：無線操作員
小林猪四郎：同盟通信従業員
柏原某：『シンガポール日日新聞』編集長

OCCIOは、特に無線通信を担当していた篠崎と海軍予備士官の永山が机を並べていた点に着目し、情報活動への関与を疑いました。

家族

1939年9月当時、豊田には妻1人と娘2人がいました。

参考文献

山本武利 編『第2次世界大戦期 日本の諜報機関分析』 6 南方編、柏書房、2000年。
Bridges, Brian (1986-1). “Britain and Japanese Espionage in Pre-War Malaya: The Shinozaki Case”. Journal of Contemporary History 21 (1): 23-35.
シンガポール市政会 編『昭南特別市史－戦時中のシンガポール』日本シンガポール協会、1986年。
篠崎護『シンガポール占領秘録―戦争とその人間像』原書房、1976年。
The Straits Times (1940年11月15日). “NEW POST FOR MR. KAORU TOYODA”.
The Straits Times (1940年11月11日). “JAPANESE CELEBRATE”.
The Straits Times (1939年9月14日). “New Japanese Consul-General”.
The Straits Times (1939年7月13日). “JAPANESE CONSUL HERE TO BE REPLACED”.


豊田薫の生涯は、戦前の日本の外交と情報活動の一側面を映し出しています。彼の活動は、複雑な歴史的背景の中で、多くの議論と研究を生み出しています。

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