象戯図式

『象戯図式』は、江戸時代に編纂された、古将棋を解説した貴重な書物です。初代伊藤宗看によって江戸幕府に献上されたことが始まりとされ、現存するものは筆写本であるため、正確な作成年代はわかっていません。

この書物には、現代の将棋（小象戯）に加え、中将棋（中象戯）、大将棋（太象戯）、天竺大将棋（天竺大将基）、大大将棋（太太象戯）、摩訶大大将棋（摩太大象戯、摩訶太太象戯）、泰将棋（大象戯）といった、様々な種類の将棋の初期配置図と、それぞれの駒の動き方が詳細に記されています。

それぞれの将棋の盤面構成や駒の種類、そしてそれらの動き方は、現代の将棋とは大きく異なる点が多く見られます。例えば、駒の種類や数が現代の将棋とは異なり、盤面の大きさも様々です。これらの記述から、江戸時代の将棋文化の多様性と、現代の将棋へと至る歴史的変遷を垣間見ることができます。

『象戯図式』は、これらの古将棋だけでなく、和将棋、唐将棋（9×9マスの盤を使用）、七国将棋、廣将棋、大局将棋といった、現代ではあまり知られていない将棋の変種についても言及している点が注目に値します。これらの記述は、当時の将棋愛好家の間で、多様な将棋が楽しまれていたことを示唆しています。

現在、この『象戯図式』は、その全文を入手することは困難です。しかし、部分的に『ものと人間の文化史23 将棋』（増川宏一・法政大学出版局）に収録されており、一般的にアクセス可能です。同書に収録されている『象戯図式』は、松浦大六による1909年の筆写本に基づいています。

『象戯図式』は、現代の将棋研究においても重要な史料となっています。その内容は、現代の将棋のルーツを探る上で貴重な手がかりを与えてくれるだけでなく、江戸時代の将棋文化の豊かさ、そして将棋というゲームの多様な発展の歴史を理解する上で、欠かせない資料と言えるでしょう。将棋の歴史や変遷に興味のある研究者や愛好家にとって、必見の書物と言えるでしょう。様々な将棋のルールの違いや、盤面上の戦略、そしてそれらがどのように現代の将棋へと繋がるのか、といった点を考察する上で、『象戯図式』は非常に貴重な知見を提供してくれます。

この書物は、単なる将棋のルール解説書にとどまらず、江戸時代の文化や社会状況を理解する上でも重要な手がかりとなるでしょう。将棋を通して、当時の社会や人々の生活の一端を垣間見ることができる、貴重な資料なのです。

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