負の所得税

負の所得税（Negative Income Tax, NIT）

負の所得税は、特定の収入以下の人々が税金を納めるのではなく、政府から給付金を受け取る仕組みです。これは1940年代にジュリエット・ライス＝ウィリアムスによって提案され、後にミルトン・フリードマンが『資本主義と自由』の中で展開しました。この考え方の主要な目指すところは、貧困問題への対策を強化することです。

モデルの概要

負の所得税制度では、課税対象となるのは一定の所得レベル以上の人々だけであり、そのレベルを下回る所得の人々は不足分に応じて給付金を受け取ります。たとえば、年収が4万ドルの人は税金を支払わず、100万ドルの人は相応の税金を納めることになります。収入が4,000ドルの人は、年に9,000ドルの給付を受けることができます。この仕組みは、社会的な最低所得保障を確保しつつ、行政の効率化を図ることを目的としています。

動機と利点

負の所得税は、貧困層に対して給付を行うことで、従来の複雑な公助制度を簡素化する可能性を持っています。具体的には、最低賃金、フードスタンプ、社会保障プログラムなど重複する援助の必要性を減らすことが期待されています。また、この制度は労働者に対するインセンティブを向上させることができ、低賃金労働者も高賃金の職を探すことが促進されます。

行政運営の効率化

負の所得税は、一般的な税金と福祉制度を単一の仕組みで統合することで、行政の人員を削減し、運営コストを抑えることが可能です。このことにより、資源をより生産的な活動に振り向けることができます。さらに、この制度は経済の安定化にも貢献すると考えられています。

批判ポイント

しかし、負の所得税には批判も存在します。まず、税制の不正行為を防ぐためには十分な報告と監視が求められます。不正を行うインセンティブが高まるのではないかという懸念もあります。また、給付を受けることによる労働意欲の減退も指摘されています。実際に、1970年代に行われた調査では、負の所得税制度が労働意欲に与える影響についての研究が行われており、給付金が既存の福祉制度と同程度であるため、意欲を削ぐ効果は限定的であるとの結果が出ています。

給付付き税額控除

フリードマンは、控除未使用部分を還付するモデルを提案し、はっきりした課題として、労働意欲を減少させないよう助成率の調整を考慮する必要性を指摘しました。負の所得税は一部の国では導入されたものの、すべての福祉施策をこれに置き換えるには至っていません。

実施の歴史

負の所得税の実現については、過去に幾度かの試みがありましたが、政治的な障害により実施に至った例は少ないです。1968年から1979年にかけて、アメリカで行われた大型の社会実験が記憶に残ります。この実験には、ニュージャージー、アイオワ、インディアナ州、シアトルとデンバーが含まれ、それぞれ異なる環境で負の所得税が実施されました。これにより、実際の影響とその効果が検証されました。

負の所得税の未来

現在、負の所得税の考え方は、一部の国での修正や新しい型の給付付き税額控除として、再び注目されています。その理由の一部は、所得の低い人々への公的扶助に対する社会的なスティグマを減じ、公平性を高める可能性が志向されている点にあります。とはいえ、労働への誘引を失わせないための適切なシステム設計が求められています。

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