貧困旅行記

貧困旅行記

概要

『貧困旅行記』（ひんこんりょこうき）は、1991年9月に晶文社から発表された、漫画家つげ義春による紀行文集です。この作品には全196ページにわたり、13篇のエッセイが収められています。つげは1987年に発表した『別離』以降、漫画の執筆活動を一時中断し、その後このエッセイ風の旅行記を執筆しました。この紀行文集には、過去に発表された5つの作品に加え、新たに8つの作品が含まれています。

つげは1966年から1976年の間に多くの旅を経験し、その体験を踏まえた作品を次々に発表しました。しかし、1976年以降は心身の不調に伴い、旅行の頻度は減少しました。彼は、子供の休暇を利用して年に1、2回行う短い旅行にシフトし、年齢や経済的な事情から旅行への意欲が薄れていったと語ります。その結果、『貧困旅行記』というタイトルは、旅行そのものの貧しさだけでなく、旅を通じて感じる心情の貧しさも表現しています。

作品の内容

この紀行文は、1968年に30歳のつげが九州を訪れた蒸発旅から始まります。旅先での独特の風景や景色が描写され、時間がゆったりと流れるような感覚が伝わります。たとえば、養老鉱泉では、ミシミシと音を立てる階段や傾いた畳の情景が印象に残ります。

また、親子3人で単独生き残ったヤドカリを海に放すために訪れた外房大原の旅や、夕暮れ時に現れる幻想的な景色が描かれる犬目宿の話もあります。特に、1989年に訪れた秋山村では、隠棲を求めるつげの思いが深く表現されています。

この作品では、一般の旅行者が見過ごしがちな山村や宿場、静かな漁村、癒しの湯治場、鉱泉など、少し忘れ去られたような場所に目を向けています。それらの場所には、つげならではの郷愁と憧れが込められ、読者に深い感動を与えます。『貧困旅行記』は、つげ義春の生涯や彼の作品を理解するための貴重な資料となっており、彼の作品を愛する人々にとっては欠かせない一冊です。

構成

本書は大きく4つの段落に分かれており、それぞれに異なる装丁が施されています。最初は蒸発旅日記が紹介され、次に大原や富浦の紀行が続きます。

第3段落では、養老鉱泉を訪れたときのエピソードが語られています。この旅では、作家自身が不安定な心情を抱えつつ、魅力的な風景に目を奪われる様子が描写されます。彼はこの鉱泉の古びた宿に心惹かれ、宿泊することになりました。当初はその風情を好ましく思わなかったものの、最終的にはその宿に対して好感を持つようになります。

最後の段落には、改稿された秋山逃亡行が収録されています。これらの作品群は、つげ義春が自身の旅や存在をどのように感じているかを深く探る読み応えのある内容です。

文体と影響

つげ義春の文体には、彼が影響を受けた作家、川崎長太郎の要素が色濃く表れています。特に本作においては、「てにをは」を省いた文体が特徴的で、川崎独自のスタイルを見ることができます。この作品を通じて、つげがどのように独自の視点を持ち、表現したかがよく理解できるでしょう。

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