貪食細胞

貪食細胞（どんしょくさいぼう）

貪食細胞とは、生体の免疫システムを担う重要な細胞群であり、その名の通り、周囲の微粒子や細胞を取り込んで（貪食して）消化・分解する能力を持つ細胞の総称です。病原体である細菌やウイルス、あるいはアポトーシスによって死滅した自己の細胞、さらには組織内に侵入した異物などを効率的に排除することで、生体の防御や組織の健康維持に不可欠な役割を果たしています。

この「貪食細胞」という用語は、しばしば「食細胞（しょくさいぼう）」とほぼ同義で用いられますが、その指し示す範囲には広狭があります。一般的に、「食細胞」は、文字通り貪食という能力を持つ細胞全般を広く指す言葉として使われます。一方、「貪食細胞」という言葉は、広義にはこの食細胞全般を含む概念として用いられることもありますが、文脈によっては特定の種類の食細胞、特にマクロファージを指して「狭義の貪食細胞」と呼ぶ場合もあります。したがって、「貪食細胞」という言葉を見たときには、それが食細胞全体を指しているのか、あるいはマクロファージなどの特定の細胞を強調しているのかを理解することが重要です。

食細胞、すなわち貪食細胞に含まれる主要な細胞には、主に以下のものがあります。

マクロファージ (Macrophages):
単球と呼ばれる白血球が組織に移行して分化した細胞で、全身の様々な組織に常駐しています。病原体の貪食・分解だけでなく、死細胞や細胞破片の除去、さらに免疫応答の開始において中心的な役割を担います。病原体由来の分子などを細胞表面に提示（抗原提示）し、他の免疫細胞（特にT細胞）に危険を知らせることで、獲得免疫応答へと繋げます。また、炎症の調節や組織の修復にも関わる多機能な細胞です。

好中球 (Neutrophils):
白血球の一種で、血液中に最も多く存在する食細胞です。主に細菌感染の初期段階で迅速に感染部位に駆けつけ、大量の病原体を貪食・殺菌します。貪食能力は非常に高いですが、寿命は比較的短く、病原体を処理した後は自身も死滅することが多いです。炎症反応において重要な役割を果たしますが、過剰な活性化は組織損傷を引き起こすこともあります。

樹状細胞 (Dendritic cells):
皮膚や粘膜、リンパ組織などに広く存在する細胞で、特に強力な抗原提示能力を持ちます。病原体や異物を貪食した後、それを分解して得られた断片（抗原）をリンパ節に運び、T細胞に提示することで、獲得免疫応答の誘導において最も重要な役割を果たします。貪食そのものよりも、抗原提示細胞としての機能がより注目されることが多いですが、貪食能力を持つ細胞として食細胞に含まれます。

その他の食細胞:
他にも、好酸球や好塩基球といった白血球の一部も限定的ながら貪食能力を持つことがあります。

貪食細胞による貪食（Phagocytosis）のプロセスは、いくつかの段階を経て行われます。まず、貪食細胞は、病原体や異常な細胞の表面にある特定の分子パターン（病原体関連分子パターン; PAMPsなど）や、オプソニン化された標的（抗体や補体によって覆われた標的）を認識します。次に、標的に細胞膜を広げて取り込み、ファゴソームと呼ばれる細胞膜に包まれた小胞を形成します。このファゴソームは、細胞内のリソソームという、消化酵素を豊富に含む別の小胞と融合し、ファゴリソソームとなります。ファゴリソソーム内では、リソソーム酵素や活性酸素種などによって、取り込まれた標的が分解・殺菌されます。分解された不要物は細胞外に排出されるか、一部は抗原提示に利用されます。

このように、貪食細胞は単に異物を「食べる」だけでなく、生体防御、炎症応答、免疫応答の開始と調節、組織の恒常性維持など、多岐にわたる生命活動を支える基盤となる細胞群です。特にマクロファージや好中球、樹状細胞は、それぞれの特徴的な能力を活かして連携し、生体を様々な脅威から守る最前線で機能しています。これらの細胞の働きが生体にとって非常に重要であることが理解されます。

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