食細胞

食細胞（しょくさいぼう）

食細胞は、動物の体内で組織の間を動き回りながら、文字通り「食べる」働きを持つ細胞の総称です。これらの細胞は、体の防御システム、特に細胞性免疫の重要な担い手であり、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を捕らえ、消化・破壊することで体を守っています。

英語では「ファーゴサイト（phagocyte）」と呼ばれます。また、「貪食細胞（どんしょくさいぼう）」という言葉も使われますが、これは広義には食細胞全体を指す一方、狭義にはマクロファージ（大食細胞）を特に指す場合があります。

主な種類

食細胞には、主に以下の3つのカテゴリーがあります。

マクロファージ（大食細胞）および単球: 血液中の単球が組織に移動して分化した細胞で、病原体や死細胞の貪食、抗原提示、炎症反応の調節など、多岐にわたる機能を持っています。
好中球: 白血球の一種で、感染部位に最も早く駆けつける細胞です。細菌などの病原体を貪食・殺菌する能力に優れています。
* 樹状細胞: 皮膚や粘膜などに多く存在し、異物を取り込んでリンパ節に移動し、T細胞に抗原を提示することで免疫応答を開始させる司令塔のような役割を担います。

機能の詳細

食細胞の中心的な機能は「食作用（しょくさよう、phagocytosis）」です。これは、細胞膜を使って外部の物質を取り込み、細胞内部に取り込むプロセスです。食細胞は、病原体だけでなく、体内で不要になった死んだ細胞やその断片、沈着物なども貪食して清掃する役割を果たします。

異物を細胞内に取り込むと、それは「ファゴソーム（phagosome）」と呼ばれる膜に囲まれた袋に入ります。食細胞の内部には、「リソソーム（lysosome）」と呼ばれる小器官が数多く含まれています。このリソソームには、異物を分解するための強力な消化酵素や、活性酸素などが豊富に満たされており、取り込んだ外来物を効率的に消化・処理することを可能にしています。ファゴソームはリソソームと融合し、「ファゴリソソーム（phagolysosome）」を形成。この中で異物は分解され、無害化されるか、栄養として利用されます。

感染防御の最前線として、食細胞は非常に重要です。例えば、皮膚が傷ついた際に最初に損傷部位に集まる食細胞は好中球であり、細菌を貪食したり、細胞毒性を持つ顆粒を放出して戦います。また、食作用は傷口の治癒過程でも活発に行われ、不要な組織や異物を除去することで修復を助けます。

さらに、マクロファージや樹状細胞のような一部の食細胞は、「抗原提示細胞（antigen-presenting cell, APC）」としての機能も持ちます。これらの細胞は、取り込んだ病原体を消化した後に得られる小さな断片（ペプチド）を、細胞表面にあるMHCクラスII分子と呼ばれる分子に結合させて提示します。この提示された抗原は、ヘルパーT細胞（CD4+ T細胞）によって認識され、これがきっかけとなって、より強力な細胞性免疫応答や液性免疫応答が引き起こされます。

食細胞は、アポトーシス（プログラムされた細胞死）を誘導する能力も持っています。また、多様な生理活性物質を産生・放出します。これには、炎症や免疫応答を調節するサイトカイン、組織分解酵素、活性酸素種や活性窒素種などが含まれ、体の防御や恒常性維持に貢献しています。

病原体との攻防

食細胞による排除は、多くの病原体にとって脅威ですが、一部の病原体は食細胞の機能を回避する巧妙な戦略を持っています。例えば、結核菌、サルモネラ菌、レジオネラ菌のような病原体は、ファゴソームがリソソームと融合してファゴリソソームになる過程を意図的に阻止することで、食細胞内で生き延びようとします。また、リーシュマニアのような寄生虫は、たとえファゴリソソームに取り込まれても、その内部の厳しい環境に抵抗し、消化されるのを回避する能力を持ちます。

しかし、免疫システムはこれに対抗する手段も持っています。特にヘルパーT細胞は、食細胞が病原体を効率的に排除できるように、食細胞を活性化させる重要な役割を担っています。

語源

「phagocyte」という言葉は、ギリシャ語の「phagein」（食す）と「kytos」（穴、転じて細胞）に由来しており、「食する細胞」という意味を持っています。

食細胞は、病原体からの防御、組織の清掃、そして獲得免疫の誘導という、生命維持に不可欠な多様な役割を果たす、まさに体の守りの要となる細胞群と言えるでしょう。

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