費用収益対応の原則

費用収益対応の原則（ひようしゅうえきたいおうのげんそく）

費用収益対応の原則は、企業が一定期間の経営活動を通じて獲得した収益と、その収益を生み出すために必要となった費用を、両者の間に存在する経済的な因果関係に基づき適切に対応させて計上するという、会計における根本的な考え方です。これは、企業の特定の期間における経営成績（利益や損失）を正確に算定する、いわゆる「期間損益計算」を行う上で、不可欠な原則として位置づけられています。英語では「Matching Principle」と呼ばれます。

原則の意義と必要性

企業は、様々な資源を投入（費用を発生）して経済的な価値を生み出し（収益を獲得）、そこから利益を得ることを目的として活動しています。この活動の実態を会計上の数値として正確に反映させるためには、単に期間内の収入と支出を記録するだけでは十分ではありません。重要なのは、ある収益が、どの費用と結びついているのか、という経済的なつながりを明確にすることです。

例えば、製品を製造し販売する過程では、材料の購入費、製造に携わる人件費、販売促進費など、様々な費用が発生します。これらの費用は、最終的に製品が販売され、売上という収益が実現することに貢献しています。費用収益対応の原則は、このように収益に貢献した費用を、その収益が計上されるのと同じ会計期間に計上することを求めます。

もし、この因果関係を無視して、費用が発生した期間に機械的に計上するだけであれば、ある期間には収益がまだ計上されていないのに費用だけが計上されたり、逆に収益は計上されているのに対応する費用が別の期間に計上されたりといった状況が発生し得ます。このような場合、その期間の損益計算書は企業の真の業績を歪めて示すことになり、経営者や外部の利害関係者（投資家や債権者など）が誤った判断を下す原因となりかねません。

期間損益計算における役割

費用収益対応の原則は、特定の会計期間における企業の収益力を正しく測定するために中心的な役割を果たします。この原則を適用することで、その期間に「生み出された収益」と、それに「貢献した費用」が対応付けられ、期間内の経営努力の成果としての利益が正確に計算されるのです。

この原則の実務への適用には、費用を収益と直接的に対応させる「直接対応」と、特定の期間に発生した費用をその期間の収益に対応させる「期間対応」という考え方があります。売上原価のように、特定の収益項目と直接的な因果関係が明確な費用は直接対応が行われます。一方、販売費や一般管理費のように、特定の収益項目との直接的な因果関係が不明確な費用は、発生した期間の収益に対応させる期間対応がとられるのが一般的です。

正確な期間損益計算は、企業の健全性を評価し、将来の予測を立てる上で不可欠な情報を提供します。費用収益対応の原則は、このような信頼性のある会計情報の作成を支える土台となっているのです。

会計原則における位置づけ

費用収益対応の原則は、広く受け入れられている会計基準において重要な地位を占めています。日本の企業会計原則においても、この原則は損益計算書作成の基礎として明確に規定されています。収益をいつ認識するか（実現主義）や、費用をいつ認識し配分するか（発生主義や費用配分の原則）といった他の会計原則とも密接に関連しながら、企業の会計処理全体の整合性と正確性を確保する上で中心的な役割を担っています。この原則を遵守することは、適正な会計処理を行い、企業の財務諸表に対する信頼性を高めるために不可欠です。

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