赤い智天使の聖母

ジョヴァンニ・ベッリーニ『赤い智天使の聖母』

ジョヴァンニ・ベッリーニの『赤い智天使の聖母』（La Madonna dai Cherubini rossi）は、15世紀後半のヴェネツィアで制作された油彩画です。聖母マリアと幼子イエスを主題とし、その周囲を赤い智天使が舞うという独特の構成が印象的です。この作品は、もともとサンタ・マリア・デッラ・カリタ大同信会が所有していましたが、現在はアカデミア美術館に所蔵されています。

作品の詳細

画面中央には、欄干のすぐそばに座る聖母マリアが描かれています。彼女は左膝の上に幼いイエスを抱き、両手でその体を優しく支えています。イエスは何かを問いかけるような表情で聖母を見上げ、聖母もまた深い愛情をもって息子を見つめ返しています。この二人の視線の交差が、作品に温かい親子の絆を感じさせます。

聖母の頭上には、赤い智天使が空中に浮遊しています。これらの智天使が乗る雲には、かすかに赤い色が反射しており、画面全体に神秘的な雰囲気を醸し出しています。背景には、夜明け前の白み始めた空と、遠くまで広がる緑豊かな風景が描かれており、ベッリーニの光に対する繊細な感覚がうかがえます。特に、背景の描写はフランドル絵画の影響が見られ、地上風景と並行して自然主義的な白い雲が配置されています。

しかし、赤い智天使はモノクロで描かれており、他の自然な描写とは対照的です。智天使の配置も不規則で、ベッリーニの他の作品における、シンメトリックで規則的な智天使の配置とは異なります。この赤い智天使の色は、大同信会の名前にもある「カリタ」（慈愛）を象徴していると考えられています。

制作年代と影響

『赤い智天使の聖母』の制作年代については、美術史家の間で意見が分かれています。構図が似ている『アルツァーノの聖母』よりも先行して制作されたという説と、描線の柔らかさから『アルツァーノの聖母』の後に制作されたという説がありましたが、現在では後者の説が有力です。智天使のモチーフは、ベッリーニの父ヤーコポ・ベッリーニの作品に由来すると考えられており、さらにアンドレア・マンテーニャの作品にも影響を受けている可能性があります。これらの要素から、1485年から1490年頃に制作されたと考えられています。

来歴

この作品は1812年にサンタ・マリア・デッラ・カリタ大同信会の財産目録に記録されていますが、それ以前の来歴は不明です。大同信会の発注によるものではなく、会員の寄贈によって所蔵されるようになった可能性も指摘されています。

まとめ

『赤い智天使の聖母』は、ジョヴァンニ・ベッリーニの繊細な筆致と、豊かな色彩感覚が際立つ作品です。聖母マリアと幼子イエスの愛情あふれる姿、赤い智天使が舞う神秘的な空間は、見る者に深い感動を与えます。ヴェネツィア・ルネサンス絵画の傑作として、多くの人々を魅了し続けています。

関連作品

『アルツァーノの聖母』（Alzano Madonna）
ヤーコポ・ベッリーニ『聖母子と智天使』（Madonna col Bambino benedicente e cherubini）
アンドレア・マンテーニャ『聖母子と智天使』（Madonna col Bambino e un coro di cherubini）

参考文献

木村三郎、島田紀夫、千足伸行 ほか 編『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦 監修、三省堂、1994年
国立新美術館、TBSテレビ 編『アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネッサンスの巨匠たち』セルジョ・マリネッリ イタリア側監修、越川倫明 日本側監修、TBSテレビ、2016年

外部リンク

アカデミア美術館公式サイト, ジョヴァンニ・ベッリーニ『赤い智天使の聖母』)

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