赤ひげ診療譚

『赤ひげ診療譚』

『赤ひげ診療譚』は、著者山本周五郎による連作短編小説集で、1958年から1959年にかけて『オール讀物』に連載され、後に文藝春秋新社から出版されました。作品には、江戸時代中期を背景にした8つの短編が収められており、特に小石川養生所での出来事を描いています。物語の中心となるのは、長崎で医学を学んできた青年医師・保本登と、実在の医者である新出去定（通称「赤ひげ」）です。

この小説は、医師としての理想や患者との人間関係について考えさせられる内容となっており、特に医療の現場での葛藤や、貧しい人々への無償の奉仕をテーマにしています。「赤ひげ」は、患者のために自身の時間や労力を惜しまず、愛情を持って接する医者を象徴する存在として描かれています。登は彼とともに精神的な成長を遂げ、真の医療の意義を次第に理解していく様子が物語の中で描かれています。

各短編の概要

1. 狂女の話

物語の序章では、登が江戸に戻り、小石川養生所で働くことになるきっかけが語られます。彼は保守的な体制に反抗しつつも、狂女であるおゆみと関わる中で医師としての倫理に悩むことになります。

2. 駆込み訴え

孤独な老紳士の死をきっかけに、登が十人の子供たちのために奮闘する姿が描かれます。この物語は、家族の絆や情の厚さを考えさせるものです。

3. むじな長屋

通い療治を通じて、登は佐八という人に出会います。彼は人々に思いやりを持ちつつも、秘めた過去を抱える存在です。

4. 三度目の正直

登と新出は、大工の猪之を診察しに訪れます。猪之の深層心理や青年期の葛藤が浮かび上がり、友情の大切さが感じられます。

5. 徒労に賭ける

娼婦たちの救済活動をする新出が、社会の不条理を訴え、登との間で医師としての使命感を抱くシーンに心を打たれること間違いありません。

6. 鶯ばか

登は実家を訪れ、かつての知人たちと再会し、自己反省を促す出来事に直面します。家族や過去の影響が医師としての成長にどう関わっているかを考えさせられます。

7. おくめ殺し

過去の約束が崩れそうになる中で、登は医師としての立場をどう保つか試されています。約束や信義についての問いかけがなされます。

8. 氷の下の芽

再び出会った登は、許しを乞うちぐさと対話を交わし、成長を象徴する最後のエピソードが描かれます。医療がどのように人の人生に影響を与えるのかが強調されます。

影響と評価

『赤ひげ診療譚』は、長きにわたり多くの読者に支持され、1965年には黒澤明監督によって映画化されました。これにより作品の認知度が一層高まり、以降も様々な形で映像化されています。また、医師の理想像として「赤ひげ」という言葉が広まり、医療界に影響を与え続けています。現在でも新潮文庫版として広く流通しており、100万部を超える発行部数を誇ります。

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