小石川養生所

小石川養生所の歴史と役割

小石川養生所（こいしかわようじょうしょ）は、江戸時代に幕府が設立した無料の医療機関で、享保から幕末までの約140年間、貧困層を支援する役割を果たしました。この施設は江戸の医学の発展とともに、特に下層民の救済を目的としていました。

上層民対策と設立の背景

江戸中期において、農村からの移住者が増えた結果、都市では困窮している人々が目立つようになりました。享保の改革では、江戸の防火や風俗の規制に加えて、下層民の問題にも対応することが重視されたのです。将軍徳川吉宗は享保6年（1721年）に、困窮者を救うために目安箱の設置を告知し、町民からの意見を集めました。この結果、漢方医である小川笙船が施薬院の設立を求める投書を行い、享保7年（1722年）には設立が決定されました。

新設の養生所は小石川薬園内に設けられ、建物は柿葺きの長屋で、40名を収容できるスペースがありました。管理は町奉行が担当し、医師は初めに内科医が中心であり、地元の医師たちが治療を行いました。医師たちは急病に対応できるように夜間勤務をしていました。

施設の変遷

開所当初は、病院としての利用が少なく、患者数も思うように伸びませんでした。無宿者と同様に扱われることを避けるため、入院基準が厳格であったためです。しかし、享保8年（1723年）からは基準が緩和され、身寄りのない貧しい人々や看病人も受け入れられるようになりました。この変更により、入院患者の数は増加し、設立時から続けて人員の充実が図られました。

幕末期の医療体制

幕末期になると、蘭方医が勤務する「医学所」との対立が見られ、漢方医の権威が低下していきました。このような医療環境の変化に伴い、小石川養生所の運営や質も低下しました。しかしながら、明治維新後も「貧病院」と名を変えて、ある程度の役割を維持することとなります。最終的には新政府の政策によって、漢方医学が廃止され、その機能も失われてしまいました。

その後の小石川養生所

1870年には文部省の管轄に移行され、最終的に1877年に東京帝国大学に譲渡され、理学部の一部として組み込まれました。2012年には「小石川植物園」の一部として国の名勝および史跡に指定されています。現在、当時の養生所で使用された井戸も残されており、その井戸は関東大震災時には被災者の水源としても利用されました。

小石川養生所の影響

小石川養生所はその後の東京都における医療制度に多大な影響を与える事例となりました。江戸時代における社会的な取り組みや、公共の医療制度の礎を築いた点でも重要な役割を果たしました。また、著名な作品においても養生所は登場し、地域の医療の必要性を訴える重要な舞台として位置づけられています。

小石川養生所は、社会的な弱者を支え、江戸時代の医療の発展に寄与した重要な施設として今日までその名が残されています。

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