赤井米吉

赤井 米吉

赤井 米吉（あかい よねきち）は、1887年6月1日に生まれ、1974年2月26日に逝去した日本の教育者です。石川県金沢市で山本家の子として生まれ、後に赤井家の養子となりました。広島高等師範学校（現在の広島大学）を卒業しています。教育者として、ヘレン・パーカーストが提唱した「ドルトン・プラン」を日本に紹介したことで知られ、1924年には明星学園を、終戦後の1946年には金沢女子専門学園（現在の学校法人金沢学院大学）を創設するなど、近代日本の教育に大きな足跡を残しました。

生涯とその歩み

金沢で幼少期を過ごした赤井は、小学校を経て、石川県尋常師範学校付属小学校高等科へ進みます。この頃から地元のメソジスト教会に通い始め、キリスト教の影響を受けるようになります。自宅が火災に遭うなどの出来事もありましたが、学業を進め、石川県金沢第二中学校を経て、師範学校の講習科を修了後、準教員として教職に就きました。

その後、石川師範学校に入学。規律の厳しい環境にありながらも、植物採集や教会での活動に慰めを見出しました。植村正久や井深梶之助といった人物の講話に感銘を受け、また内村鑑三の思想に共鳴した時期もありましたが、後に内村への敬意は薄れます。一方で、島崎藤村の新体詩に深く感動し、藤村との書簡のやり取りを経て、文学の道を志す決意を固めます。しかし、広島高等師範学校への受験に失敗し、金沢郊外の小学校で訓導として働き始めます。

金石尋常高等小学校での教員時代、赤井は正規の授業に加え、児童文学の読み聞かせや、バイオリンを用いた唱歌指導、さらにはスポーツ活動など、課外教育にも積極的に取り組みました。この時期に、後の妻となる野里つると出会っています。

念願叶って広島高等師範学校英語科に入学すると、英文学研究に没頭し、翻訳や英語劇、英会話など多様な活動を展開しました。ここで後の同志となる小原国芳と親交を深めます。自然主義思想の影響を受け、信仰と理性の間で悩んだ末、山口県で青少年更生に取り組む本間俊平のもとを訪れます。本間の厳しい指導と、労働と祈りの生活を通して、赤井は文学者としての夢を捨て、生涯を教育に捧げることを決意しました。

新しい教育の探求

広島高師卒業後、愛媛師範学校の教諭となった赤井は、校長山路一遊から多大な影響を受け、ルソーやロックの新教育思想を学びます。教え子の中には、後に明星学園を共に創設する山本徳行がいました。福井県小浜水産学校へ転任後は、漁の実習を通じて労働と教育の結びつきの重要性を認識し、「万人労働の教育」を論じるに至ります。しかし、福井県立武生中学校への赴任では、学校の閉鎖的な雰囲気に苦しみました。大正デモクラシーの中で展開される新教育思想に関心を寄せ、成城学園への誘いもありましたが、秋田師範学校付属小学校の主事となります。ここでも学校の体制と自身の自由教育思想との間に摩擦が生じ、短期間で成城小学校へ転任しました。

成城学園で澤柳政太郎からドルトン・プランを紹介された赤井は、その紹介者として新教育運動の中心人物となります。しかし、学園内で小原國芳との対立が表面化し、赤井は同志と共に新たな学園の創設を決意します。資金協力者を得て、1924年、井の頭に明星学園を創設しました。創設当初は様々な困難に見舞われますが、多方面からの支援を受けて学園は発展し、中学部、女学部も設置されます。

激動の時代と戦後

明星学園の創設者として、赤井は新教育の指導者として国内外に名を知られるようになります。北原白秋や武者小路実篤といった知識人との交流も生まれました。しかし、1930年代に入ると、社会情勢の変化と共に自由教育運動は分裂し、赤井自身も社会主義的な立場から資本主義の矛盾を批判するようになります。思想が危険視されたとして特高の家宅捜索を受けたという見方もあります。海外視察で欧米の帝国主義を目の当たりにし、1937年の日中戦争開戦を経て、赤井の思想はナショナリズムへと傾倒し、国家体制への積極的な賛同者となっていきます。国家総動員法にも賛同し、教育を「皇国の道」と捉えるに至りました。多くの卒業生が戦場へ送られ、終戦間際には実母を空襲で亡くしました。敗戦後、明星学園は壊滅的な被害を受け、多数の卒業生が戦死するという現実を目の当たりにします。

敗戦後、赤井は再び自由主義教育を見つめ直し、日本の教育再建にGHQから協力を求められます。1946年には金沢女子専門学園を創設しますが、同年、戦時中の思想を理由に教職追放令を受け、教育の現場から離れることを余儀なくされます。この間、著述活動に専念。追放解除後、明星学園や金沢女子短大は既に独自の道を歩んでおり、復帰は叶いませんでした。北陸新聞社の社長を務めた時期もありましたが、経営者としては困難に直面し辞任。参議院議員立候補の準備も衆議院解散により実現しませんでした。その後、明星学園の理事長に迎えられ、学園の運営に尽力しました。また、武蔵野市教育委員会委員長として地方教育にも貢献。晩年は下中記念財団の理事長を務めるなど、教育界に貢献し続けました。1974年、86歳で波乱に富んだ生涯を終えました。

家族

赤井米吉は、野里つる夫人との間に五人の子をもうけましたが、長男と次男、そして長女に先立たれるという悲しい経験をしました。また、実父、実母、養母も彼の生涯の中で亡くなっています。

主な著作・翻訳

多くの教育論や翻訳書を出版しており、その思想は著書を通じて知ることができます。

主な著書

『ダルトン案と我国の教育』（1924年）
『新らしき教育計画のために』（1932年）
『世界観と教育』（1941年）
『ガイダンス』（1949年）
『道徳教育の反省と再建』（1951年）

主な翻訳

『神秘主義と現代生活』（ジヨン・ライト・バツカム、1919年）
『世界文化史』（ウエルス、1925年）
『生きた教育哲学』（C・ウォシュバーン、1950年）
* 『原子時代に住みて 変りゆく世界への新しい希望』（バートランド・ラッセル、1953年）

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